難病を患った父から息子への思いを込めたドキュメンタリー、『ギフト 僕がきみに残せるもの』

  • 文・細谷美香

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スティーヴ(右)が宣告されたのは、アイス・バケツ・チャレンジでも知られるようになった難病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)でした。

ドキュメンタリーの傑作は数多あれど、ここまでパーソナルな感触の作品とめぐりあえる機会は、そう多くはないかもしれません。『ギフト 僕がきみに残せるもの』の出発点は、父からまだ見ぬ息子への、自撮りが中心のビデオ・ダイアリー。フィルムメイカーとの出会いを経てドキュメンタリー映画に発展したという経緯があるだけに、ありのままの日常が切り取られた作品になっています。

主人公のスティーヴ・グリーソンは元NFLのスター選手。引退後に筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患っていることが判明し、同時期に妻、ミシェルの妊娠もわかります。我が子を抱きしめることも、話すこともできなくなるかもしれない。そう思ったときスティーヴは、「僕がどんな人間がわかってもらうため」にギフトとしてビデオ・ダイアリーを残すことを決意します。

ALSについてはホーキング博士の半生を基にした『博士と彼女のセオリー』でも描かれていますが、このドキュメンタリーは日常を追いかけているだけに、病気の進行が生々しく記録されています。カップを持つ手は震え、少しずつ歩行が困難になり、会話もたどたどしくなっていく。うまく泳げなくなった夫を見て現実を突き付けられ、ミシェルがこらえきれずに涙してしまう残酷な姿も、思い通りに身体を動かせなくなるスティーヴがカメラに向かって叫んでしまう姿も、カメラは捉えています。宗教に救いを求める父親との確執も、介護と育児に疲れたミシェルの苛立ちも、丸ごとすべてが彼らの日常の風景なのです。

きれいごとばかりが収められているドキュメンタリーではないからこそ、どんな瞬間でもよりよく生きようともがきながら自分を奮い立たせ、ベストを尽くす彼の姿が、観る者の心を打つのかもしれません。同じ病を抱えた人々を救うための活動をはじめ、新たな治療にも踏み切り、ままならない現実をユーモアで切り抜ける。スティーヴが息子に贈ったギフトは映画になって普遍的な力をもち、私たちにALSという病について知識や、大切な人たちとの向き合い方についてのメッセージを伝えてくれます。胸が詰まって涙を抑えられない映画ですが、観終わる頃に残るのは明日に希望をつないでいこうとするエネルギー。彼の生きようとする姿勢にこそ力がもらえるドキュメンタリーです。

NFLのニューオーリンズ・セインツのスター選手だったスティーヴ。

スティーヴとミシェルは非営利法人「チーム・グリーソン」を起ち上げ、声を失った患者たちに音声合成機器の購入資金を援助する活動も行っています。

© 2016 Dear Rivers, LLC

『ギフト 僕がきみに残せるもの』

原題/Gleason
監督/クレイ・トゥイール
出演/スティーヴ・グリーソン、ミシェル・ヴァリスコ、ブレア・ケイシー、マイク・グリーソンほか
2016年 アメリカ 1時間51分
配給/トランスフォーマー
8月19日よりヒューマントラストシネマ有楽町&ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開。
http://transformer.co.jp/m/gift/