気鋭のスタジオ「A24」が放つ、奇妙で切ないオバケの物語『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』

  • 文:細谷美香

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文:細谷美香

Profile : 映画ライター。コメディや青春映画から日々の生きるエネルギーをもらっている。クセが強くて愛嬌がある俳優に惹かれる傾向あり。偏愛する俳優はニコラス・ケイジです。

気鋭のスタジオ「A24」が放つ、奇妙で切ないオバケの物語『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』

2017年のサンダンス映画祭で観客賞を受賞するなど、既に高い評価を得ています。©2017 Scared Sheetless, LLC. All Rights Reserved.

『スプリング・ブレイカーズ』『ルーム』、そしてアカデミー賞作品賞を受賞した『ムーンライト』、2018年日本公開された『レディ・バード』。これらの良質なインディーズ映画に共通しているのは、2012年にニューヨークで設立されたスタジオ「A24」が製作した作品であるということ。ジャンルも作風も違いますが、作家性の強いクリエイターがのびのびと作品をつくっています。彼らをバックアップする姿勢があるからこそ急成長を果たし、この「A24」の作品なら面白いに違いない!と映画ファンが信頼を寄せるブランド力を早くも確立しました。最近、アップルと提携を結んだことも大きな話題になっています。今回紹介する『ア・ゴースト・ストーリー』は「A24」が製作した、その名の通りの幽霊譚。日本人はオバQを連想するかもしれない、ユニークなシーツ姿のゴーストをケイシー・アフレックが演じています。

舞台は、田舎町に立つ一軒家。作曲家の男が自動車事故でこの世を去り、妻と住んでいた家にシーツを被った姿で戻ってきます。誰にも気付かれぬまま、妻をそっと見守り続けるオバQ。最初はなんだかかわいらしいな〜と思いつつ見ていたのですが、妻の悲しみも、新たな喜びもただ見つめるしかない彼の切ない姿を目にしているうちに、胸がぎゅっと締め付けられるようになってきました。妻が引っ越した後も彼はこの一軒家にとどまり続け、そこに新たな住人がやって来ます。妻の守護霊になる手もあったと思うのですが、地縛霊的な道を選んだということは、幸せな時間を過ごしたこの場所に、強い思い入れがあったのでしょうか。とにもかくにも彼が家に残り続けたことで、この物語は時空を超えた奇妙な広がりをもつことになるのです。

デヴィッド・ロウリー監督と主演のケイシー・アフレックは『セインツー約束の果てー』で信頼関係が築かれていたのだとは思いますが、全編を通してシーツを被ったままの役を引き受けた彼の役者魂には驚きです。さらにこの企画をOKした製作陣もなかなか振り切れています。“名もなき者”として浮遊する幽霊を、過去にアカデミー賞主演男優賞も受賞した著名俳優が一切顔を見せず、匿名性を獲得して演じ切った結果、大人の心に響く一本が誕生したのです。「A24」作品最高の全米オープニング興行収入を記録した、笑ってしまうほど怖いホラー映画『へレディタリー/継承』も公開中。ぜひ、そちらと併せて観てはいかがでしょうか⁉

『セインツ−約束の果て−』のデイヴィッド・ロウリー監督、ケイシー・アフレック、ルーニー・マーラが再集結。©2017 Scared Sheetless, LLC. All Rights Reserved.

古典的サイレント映画の比率を採用し、古い写真を見ているかのような映像に。©2017 Scared Sheetless, LLC. All Rights Reserved.


『A GHOST STORY  ア・ゴースト・ストーリー』

監督:デヴィッド・ロウリー
出演:ケイシー・アフレック、ルーニー・マーラほか
2017年 アメリカ映画 1時間32分
シネクイントほかにて公開中。

www.ags-movie.jp