作家と編集者の唯一無二の絆を描く、『ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ』

作家と編集者の唯一無二の絆を描く、『ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ』

ジュード・ロウ(右)とコリン・ファース(左)というイギリスを代表する名優ふたりが、アメリカ人の天才作家と編集者を演じています。

素晴らしい文学や漫画が世に出る過程には、名編集者のプロフェッショナルな仕事ぶりが不可欠であるということは知っていましたが、魂のタッグとはこういうことなのか! というまばゆい瞬間を目撃して、非常に興奮しました。『ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ』の主人公は、アーネスト・ヘミングウェイやF.スコット・フィッツジェラルドの才能を見出した敏腕編集者のマックス・パーキンズと、37歳で夭折した天才作家、トマス・ウルフ。無名の作家だったウルフから持ち込まれた原稿に光るものを感じたパーキンズが、“超大作”を出版しようと約束するところから物語がはじまります。

小説が伝えたいものをより際立たせるために、パーキンズは過剰な表現や詩的すぎる言葉を削って削って、削りまくり、もちろんウルフは反発もしますが、原稿は次第に研ぎ澄まされたものになっていく――。作家と編集者の共同作業の高揚感が味わえることは、この映画の大きな見どころになっています。感極まったウルフが「愛してるぞ、パーキンズ!」と絶叫するシーンでは、観ているこちらも絶叫しそうになりました。

仕事にすべてを捧げているため、パーキンズは家庭がおざなりになり、ニコール・キッドマン演じるウルフの愛人でありパトロンのアリーンが、パーキンズに敵意をむき出しする描写もあります。彼女がどんなにドラマティックに脅迫をしようとも、このふたりの間に入り込もうだなんて、どだい無理な話。監督もアリーンの芝居がかった振る舞いを冷たく眺めている雰囲気が満々で、彼らの関係を軸にした展開が潔く感じられました。

才能と情熱の交換から名作が生まれていく様子がとてもスリリングなのは、ふたりの性格が正反対だからかもしれません。向こう見ずでエネルギッシュ、傷つきやすくて子どものようなウルフ。寡黙で冷静、黒子に徹しようとしたパーキンズ。とことん傷つけ合いながらも互いを高い場所へと引き上げたふたりは、やがて別々の道を歩くことになります。けれどもウルフからパーキンズへのラブレターとしか言いようのない手紙が届き、パーキンズが頑なにかぶっていた帽子を、心を裸にするかのごとく脱ぐ瞬間。彼らは彼らにしか分かち合えない特別な関係を築いたのだと、胸が熱くなりました。(細谷美香)

舞台となっているのは、1920~30年代のニューヨーク。物語のバックには、ジャズエイジの空気感が漂っています。

ジュード・ロウが演じるトマス・ウルフは1929年の『天使よ故郷を見よ』などで知られ、若くして他界しました。

(c) GENIUS FILM PRODUCTIONS LIMITED 2015. ALL RIGHTS RESERVED.

『ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ』

原題/Genius
監督/マイケル・グランデージ
出演/コリン・ファース、ジュード・ロウ、ニコール・キッドマン、ローラ・リニーほか
2015年 イギリス映画 1時間44分 
配給/ロングライド
10月7日よりTOHOシネマズ シャンテにて先行公開、10月14日より全国にて公開。
http://best-seller.jp

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