歌を愛し続けた音痴なマダムの実話が映画化! 『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』が公開です。

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    音痴の特訓をしてフローレンスの役づくりをしたのは、『マンマ・ミーア!』『幸せをつかむ歌』などで見事な歌声を聞かせていたメリル・ストリープ(左)。

    多彩な作品を手がけるスティーヴン・フリアーズ。『クィーン』『あなたを抱きしめる日まで』『疑惑のチャンピオン』など、実話を基にした忘れがたい映画も撮ってきたイギリスの名匠です。彼の最新作のヒロインは、フローレンス・フォスター・ジェンキンス。類稀なる音痴でありながら音楽家になる目標を追いかけ続け、76歳の時にオペラ歌手としてカーネギーホールに立つという夢を叶えた、実在の資産家の女性です。その客席には著名な作詞作曲家、コール・ポーターらがいたといわれています。

    彼女の人生を基にしたフランス映画『偉大なるマルグリット』では、夫への思いを軸にした物語が描かれていましたが、フリアーズ監督はマダム・フローレンスの国宝級に純粋無垢な魂と、それゆえに彼女に惹かれ、支えていくことになる周囲の人々の姿を掘り下げています。

    本人は自分が音痴であることに気づいていないため、彼女の素っ頓狂な歌声を聞く貴族たちは笑いをこらえ、年下の夫は酷い評論が載った新聞を買い占めに走ることも。ピアニストのコズメも、高い報酬目当てで彼女の専属になります。けれどもやがて、誰にも奪えないフローレンスの歌への情熱は不思議な磁力をもち、人々の心を動かしていくのです。フローレンスがピアニストになる夢をあきらめざるをえなかった過去を語り、コズメとともにピアノを弾く場面のやるせない美しさに心を打たれました。

    音痴の特訓をしてフローレンスの歌声を再現し、チャーミングな笑顔を弾けさせるメリル・ストリープ。常識的な夫婦愛とはちょっと違う、マダムへの敬いに裏打ちされた人間愛のようなものを軽妙に表現したヒュー・グラント。そしてピアニストを演じたサイモン・ヘルバーグは、絶妙な顔芸で笑わせてくれます。イギリスに再現したという1940年代のニューヨークのムードやきらびやかな衣装も、見どころのひとつ。映画の幕切れにふさわしいフローレンスの最後のセリフは、周りに何と言われても好きなことに邁進していく人を励まし、人生の主人公はほかの誰でもない、自分自身なのだと気づかせてくれます。(細谷美香)

    TVシリーズ『ビッグバン★セオリー ギークなボクらの恋愛法則』のサイモン・ヘルバーグがお人好しのピアニスト(右)に。

    あらゆる手段を使ってフローレンスを守ろうと奔走する、マネージャーでもある夫役にヒュー・グラント。

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    『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』

    原題/Florence Foster Jenkins
    監督/スティーヴン・フリアーズ 
    出演/メリル・ストリープ、ヒュー・グラント、サイモン・ヘルバーグほか
    2016年 イギリス映画 1時間51分
    配給/ギャガ
    TOHOシネマズ日劇ほかにて公開中
    http://gaga.ne.jp/florence