ヒトラー暗殺にあと一歩まで迫った家具職人が、命をかけて守ろうとしたものとは?

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    ヒトラー礼賛へと傾く世の中に、ゲオルグは疑問を抱き抵抗します。

     アドルフ・ヒトラーの暗殺計画は、確認されているものだけで40件近くあるのだそうです。この映画の基になった、家具職人ゲオルグ・エルザーによる暗殺未遂もそのひとつ。ドイツ陸軍がポーランドに侵攻した直後の1939年11月、ヒトラーが演説を行うミュンヘンのビアホールに、ゲオルグは時限装置付き爆弾を設置しますが、13分早くヒトラーが演説を切り上げてしまうという予想外のことが起こります。結果、その場に居合わせたヒトラーではない8人が死亡し、ゲオルグは即日逮捕。映画は、秘密警察による取り調べと、ゲオルグが暗殺を企てるまでの日々を交互に描いていきます。ゲオルグは単独犯を主張しますが、大胆かつ正確な爆破に、ヒトラーやナチス上層部は国内の反抗勢力やイギリス諜報部の関与を疑い、取り調べは拷問を伴う凄惨なものになっていき……。


    ゲオルグはどこにでもいそうな人物です。ちょっと陰気そうで、その割に女性に積極的でなかなかのモテ男。家具づくりを生業にしていますが生活は苦しく、でも友達や好きな音楽に囲まれ、幸せな日々を送っています。そんな彼がなぜ暗殺を企てたのかが、丁寧に描かれていきます。ドイツ国内にナチスの影響力が強まっていき、やがて政権を握り統制を強め、さらには戦争へと向かうなか、ゲオルグは不穏な空気をいち早く察知し、危機感を募らせます。彼が心の底から大切にしていて、命をかけて守ろうとしたことは、いまを生きる私たちにも無関係ではありません。無関係どころか、最も大切なことだといえるでしょう。


     監督のオリバー・ヒルシュビーゲルは2004年に『ヒトラー ~最期の12日間~』を撮った後、文献を読み漁りヒトラーを知るという作業があまりにもつらく、この時代のことは二度と撮らないと決めていたそうですが、本作の脚本に出会い、そんな思いを撤回したのだそうです。ヒルシュビーゲル監督らしい歴史に対する鋭い視点と、その一方で時代に翻弄されながら生きた人々への優しい思いも込められた素晴らしい映画です。(Pen編集部)

    幸せではない結婚をしているエルザと出会い、ゲオルグは彼女のことを深く愛するようになります。

    秘密警察ゲシュタポによる取り調べは凄惨を極めます。

    『ヒトラー暗殺、13分の誤算』

    監督:オリバー・ヒルシュビーゲル
    出演:クリスティアン・フリーデル、カタリーナ・シュトラーほか
    2015年 ドイツ映画 1時間54分 配給:ギャガ
    TOHOシネマズ シャンテ、シネマライズほかにて公開中。

    http://13minutes.gaga.ne.jp