ユーモアあふれる、オリーブをめぐる冒険譚『オリーブの樹は呼んでいる』が公開!

  • 文:細谷美香

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主人公のアルマ(左)と、彼女が敬愛する祖父。女優としても『エル・スール』などの代表作を持つイシアル・ボジャインが監督を務めた。

祖父が大切にしていた樹齢200年のオリーブの樹を孫が取り戻す物語。そう聞いて牧歌的な映画を勝手にイメージしていたら、叔父さんに嬉々としていたずら電話をするようなはねっ返りのスペイン娘が元気よくスクリーンに登場して、映画が躍動しはじめます。アルマは気の強さゆえ、周囲の人たちから付き合いづらいと思われている20歳の女の子。父とは折り合いが悪い彼女ですが、オリーブ農園を営む祖父とだけは小さい頃からずっと特別な結びつきを感じていました。けれども祖父は、先祖代々に伝わってきたオリーブの樹が引き抜かれ、売り払われてしまった日から、言葉を発しないまま。樹を取り戻すことが祖父の魂を取り戻すことだと感じたアルマは、いきなりヨーロッパのどこかに移植された“オリーブの樹奪還作戦”を決行するのです。

突拍子もない行動ですが、祖父と孫との思い出を描き出したシーンがあまりにも瑞々しく、アルマをただの無鉄砲な女の子だと切り捨てることはできなくなります。陽光に包まれてチチチチチという美しい鳥のさえずりを聞きながら、接ぎ木をすると新芽が出てくるのだと、命のつながりを伝えてくれたおじいちゃん。この思い出が、養鶏場で働きながらままならない日々を生きているアルマを支えています。

アルマは叔父と同僚を巻き込み、インターネットとSNSを駆使して大切な樹を探し出し、故郷へと取り戻すための冒険の旅へ。スペインからドイツへとテンポよく描き出される旅の描写からは、現代社会が孕む問題がいくつも浮かび上がってきます。世界中の若者たちが無縁ではいられない経済危機、利益を得るために自然を犠牲にするしかない農家の人々が置かれた状況。『カルラの歌』以降ケン・ローチ作品の脚本を数多く手がけてきたポール・ラヴァーティは、たやすくは解決しない問題を前にしてしんみりとするのではく、エネルギッシュで行動力あふれるヒロインに未来を託すかのように描いています。

監督のインタビューによると、スペインには古木を大切する文化はないそうですが、樹木を神が宿る依り代ととらえて尊んできた日本人にこそ、親和性の高い物語だといえるかもしれません。アルマの無謀な回り道の旅は決して無駄ではなく、故郷を思い、家族を思う気持ちは接ぎ木のように次世代へと手渡され、やがて大地に根を張っていく。ファンタジーに逃げ込まずに愛を感じさせてくれたラストが、そのことを伝えてくれるかのようです。(細谷美香)

監督の夫でもある脚本家、ポール・ラヴァーティが、オリーブの伐採をめぐる実話からヒントを得て生まれた物語です。

オリーブの樹が並ぶスペインの美しい光景も、この映画の見どころのひとつ。

© Morena Films SL-Match Factory Productions-El Olivo La Película A.I.E

『オリーブの樹は呼んでいる』

原題/El Olivo (英題/The Olive Tree)
監督/イシアル・ボジャイン
出演/アンナ・カスティーリョ、ハビエル・グティエレス、ペップ・アンブロスほか
2016年 スペイン映画 1時間39分 
配給/アット エンタテインメント
5月20日よりシネスイッチ銀座ほかにて公開。
http://olive-tree-jp.com/