なによりも人間の心理が怖い!中島哲也監督によるホラーの新境地『来る』が公開中。

  • 文:細谷美香

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文:細谷美香

Profile : 映画ライター。コメディや青春映画から日々の生きるエネルギーをもらっている。クセが強くて愛嬌がある俳優に惹かれる傾向あり。偏愛する俳優はニコラス・ケイジです。

なによりも人間の心理が怖い!中島哲也監督によるホラーの新境地『来る』が公開中。

監督、脚本を手がけたのは、『渇き。』以来、4年ぶりの長編作品となった中島哲也監督。©2018「来る」製作委員会

これまで『嫌われ松子の一生』『告白』『渇き。』など癖の強いミステリー小説を再構築して自分のものにしてきた中島哲也監督。最新作『来る』は第22回ホラー小説大賞受賞作『ぼぎわんが、来る』を映画化した作品です。物語は、謎めいた出来事に悩まされるサラリーマンの田原(妻夫木聡)が、オカルトライターの野崎(岡田准一)のもとに相談に訪れることで動き出します。妻と幼い娘が危険にさらされることを恐れる田原に、野崎は、霊媒師の血をひくキャバクラ嬢、真琴(小松菜奈)を紹介。しかし事態はしだいにエスカレートし、真琴の姉で日本最強と言われる霊媒師の琴子(松たか子)がやって来ます。

章によって主人公が変わっていく原作の面白さを活かし、この映画版でも田原、その妻、ライターの野崎とラストに向けて視点が変わっていきます。そうして各キャラクターの裏側や抱えているものが明らかになるのです。たとえば最初のパートで描かれる田原は、充実した子育てライフを綴る人気のイクメンブロガー。人当たりがよく、どんなときも真っ先に妻子のことを考えている心優しきファミリーパパとして登場します。

しかし!妻の視点に切り変わったパートで描かれる田原は、妊婦の妻への気遣いよりも訪れたゲストへの対応が最優先です。目の前で娘がケガをした時に対処できなかった自分の狼狽ぶりやミスをまるでなかったかのように、ブログをアップすることに命をかけているという、あまりも非常識なダメ男……。まぁ、こいつは何者かにズタズタにされても仕方ないね、とあっさり思ってしまった自分も含め、もののけよりなによりも人間の心理が怖い!と実感させられるホラー映画なのです。人間の無自覚な悪意をこれでもかと暴いてみせる、中島監督ならではの手腕が光ります。

テンポの速い編集で畳み掛けてくるスタイルゆえ、ラストまではあっという間。異常にスケールの大きい除霊シーンには神聖さと突き抜けたユーモアが漂い、キャスト陣もそんな中島ワールドで新しい顔を見せています。ツボにハマって思わず笑ってしまったのは、切羽詰まったシーンで、邪魔!とばかりに松たか子が岡田准一を殴るところ。実際に格闘技の師範でもある岡田准一が倒される姿は他の映画ではなかなか見られません。さりげなく貴重なシーンにも注目です。

最強の霊媒師を演じた松たか子。ストレートヘアに黒ずくめの衣装で、気品と凄み、ユーモアのある役どころです。©2018「来る」製作委員会

田原の妻を演じたのは、黒木華。育児ノイローゼ気味の妻役を見事に演じています。©2018「来る」製作委員会


『来る』

監督:中島哲也
出演:岡田准一、黒木 華、小松菜奈、松たか子、妻夫木聡ほか
2018年 日本映画 2時間14分
全国にて公開中。
http://kuru-movie.jp