絵本好きなら一度は行きたい、東京の書店。

  • 写真:長尾真志
  • 文:岩崎香央理

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絵本には、大人になった今だからこそ楽しめる世界があります。また一冊の絵本との出合いが、ときに一生の宝物になることも。独自の切り口で絵本を揃える人気書店で、店主のお薦め本とセレクトのこだわりを取材しました。


<東京・中目黒>童心に返る、古書との触れ合いを演出。

美術書や写真集を含め約3000冊をストックし、うち三分の一が絵本と児童書。やわらかな光と、木の温もりや紙の香りが長居を誘います。2階にギャラリーも構えています。

中目黒駅前の商店街が住宅地の風景へと変わる道すがら、ふと寄り道したくなる古書店があります。名前は「デッサン」。店主の大和田悠樹さんは「古い絵本の佇まいが好き」と語ります。「忘れてしまったなにかを思い出させてくれるのが絵本のいいところ。絵をデッサンから始めるように、大人になってなにかを体験し直すきっかけとして“大人の絵本屋”をやりたかったんです」。散歩途中の親子連れや、美術書を探すデザイナー、洋書の絵本を求め外国人が来たりと、客層は幅広い。「同じ絵本でも版によって紙質や訳者が違ったり、雰囲気が異なるのが面白い」と大和田さん。古書ならではの味わい深い一冊が探せます。

窓際の棚には、昔の翻訳絵本や絶版となったシリーズものが並び、新刊書店にはない“お宝”を発掘できます。

アメリカのグラフィック・デザイナー、アン&ポール・ランドが手がけた幼児向けビジュアルブックの初版本など、貴重な古書も並びます。

店主のお薦め絵本

『魔法のことば』柚木沙弥郎 絵 金関寿夫 訳 福音館書店 2000年

イヌイットに伝わる詩に、染色家の柚木沙弥郎さんが力強い絵を添えた本です。人も動物もみな同じ言葉をもっていた世界では、人は動物にもなり、動物が人にもなれた。不思議な詩ですが、おおらかな絵がプリミティブな言葉の力を感じさせます。

店主の大和田悠樹さん。

デッサン
東京都目黒区上目黒2-11-1 
TEL:03-3710-2310 
営業時間:12時~20時 
定休日:火 
https://dessinweb.jp

<東京・神保町>グラスを傾けながら、絵本と向き合う時間を。

約1万2000点の絵本と児童書を取り揃える店内。中央のカフェ席では原則、購入した書籍のみ持ち込むことができます。

絵本と児童書の専門店でありながら平日は23時まで営業し、店内のバーではビールやカクテルも提供する「ブックハウスカフェ」。本の街・神保町で、絵本片手に酒を飲むスタイルを提案したいと、店長の茅野由紀さんは話します。「2017年に、新たにカフェとバーを設置した絵本専門店としてオープンしました。仕事帰りにバー目的で立ち寄ってくれる人をはじめ、絵本が普段身近にない人も入店しやすくなったと思います。幅広い世代に開かれた交差点のような店でありたいです。絵本とお酒で究極の癒やしの時間をぜひ」。ダンサーによるポールダンスのショーを店内で繰り広げたりと、子どものための場所を超えた、挑戦する絵本専門店です。

昼はカフェ、夜はバーとなるカウンター。アルコールの他に、ビーフカレーやチーズケーキなどの軽食も提供。「お酒の品揃えにはこだわっていきたい」と茅野さん。

貸し切り可能なイベントスペースでは、作家の原画展が行われることもあります。奥にはキッズスペースを完備。

父親向けコーナーや社会的なテーマに基づいたフェアなど、大人の興味も刺激する棚づくり。

店主のお薦め絵本

『こんとん』夢枕 獏 文 松本大洋 絵 偕成社 2019年

もともと松本大洋さんの絵が好きでして、夢枕獏さんとのコラボに驚きです。中国の神話に登場する「渾沌」の成り立ちを題材に、壮大な世界を松本さんが見事に描き切っています。「こんとん」という響きの美しさと妖しさ。大人こそ、この深みにハマるはずです。

店長の茅野由紀さん。

ブックハウスカフェ  

東京都千代田区神田神保町2-5 北沢ビル1F 
TEL:03-6261-6177 
営業時間:11時~23時(月~金)、11時~19時(土・日・祝) 
不定休 
www.bookhousecafe.jp

こちらの記事は、2019年Pen 4/15号「泣ける絵本。」特集からの抜粋です。