Penが選んだ、2019年6月の注目カルチャー[BOOK/本]

  • 文:今泉愛子

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クリエイティブな感性を刺激する、本、映画、音楽を紹介する「Penが選んだ注目のカルチャー」。注目すべき作品を、毎月ご紹介します。



若手の描き文字800点に見る、自由な作字の可能性。
『作字百景ニュー日本もじデザイン』

近年、若手デザイナーの間で盛り上がりを見せる“描き文字”。オリジナルの文字をSNSに投稿する人も現れ、発表の場も増えている。本書は、新世代のデザイナー40組が手がけた文字800点を収録。フライヤーやポスター、看板、書籍の装丁などのグラフィック・デザインにおいて、既存のフォントではなく描き文字を使うことで伝わり方はいかに変わるのか。どんな形や色で表現すれば、よく伝わるのか……。収録された文字を眺めるだけでも、自由な作字の効用を実感する。

グラフィック社編集部 編 グラフィック社 ¥3,024(税込)

名作を残した天才小説家の早熟ぶりが伝わる14篇。
『ここから世界が始まる—トルーマン・カポーティ初期短篇集—』

『ティファニーで朝食を』などの作品で知られるトルーマン・カポーティが高校時代に学内誌に投稿した7篇を含む、彼の作家人生の最初期の作品14篇を収録。そのうちの1篇「ここから世界が始まる」では、少女の気まぐれさを見事に表現。11歳で書き始めた彼が、10代で既に自分の物語の世界を構築し、言葉を選んでいたことが伝わってくる。カポーティの早熟さを分析した村上春樹の解説も必読。

トルーマン・カポーティ 著 小川高義 訳 新潮社 ¥2,052(税込)

キャッシュレス化が進んだら、個人の信用格差が生まれる!?
『キャッシュレス覇権戦争』

キャッシュレス決済とは、クレジットカードや電子マネー、QRコードを使った、スマホ決済など現金以外の手段で代金を支払うこと。日本はまだキャッシュレス決済比率が低い分、今後はペイペイ、LINEペイ、NTTドコモ、楽天、アマゾンらの覇権争いが激化しそうだ。消費生活ジャーナリストの著者は、キャッシュレスのメリットとデメリットを分析し、蓄積された取引データに基づく「信用スコア」ビジネスについても解説。お金の使い方が個人の信用格差につながる未来を暗示する。

岩田昭男 著 NHK出版 ¥842(税込)

スペインの名ストライカーは、なぜ日本のチームを選んだのか。
『フェルナンド・トーレスこれまでの道、これからの夢』

スペイン出身の世界的なストライカーが、新たな挑戦の場として選んだのは、サガン鳥栖だった。加入した2018年、チームはJ1リーグ残留を決めた。本書では、これまでのキャリアやサガン鳥栖を選んだ理由を明かし、ヨーロッパと日本の選手の違いについても分析。日本の選手は、技術力は高いが戦術には弱いこと、勝つことへの執念がそれほど感じられないことなどを明かす。明晰な言葉から、一流選手の冷静さと聡明さが伝わってくる。

フェルナンド・トーレス 著 竹澤 哲 構成・訳 徳間書店 ¥1,944(税込)

昭和史研究の第一人者が、政治や災害から平成を振り返る。
『平成史』

昭和史研究で菊池寛賞を受賞した著者が、平成という時代を詳細な年表とともに振り返る。明仁上皇は、昭和天皇からなにを引き継ぎ、なにを新たに築いたのか。政治はどう変化したのか。平成に起きた大災害やオウム真理教事件が国民の心に残したものはなんだったのか。興味深いのは、日本の右傾化への論考だ。著者は、民主党政権が芳しい成果を上げられなかったことを取り上げて分析。臓器移植や安楽死の議論から、日本人の死生観が変化しているという指摘も考えさせられる。

保阪正康 著 平凡社 ¥886(税込)

ノーマのシェフも醤油に注目!?食のグローバリズムをひも解く。
『世界は食でつながっているYou and I Eat the Same』

各地域の食材や伝統的な調理法を尊重する機運がある一方で、古くから人を介して食材や調理法は世界に広がり、新しい料理が誕生してきた。本書では、平たいパンで肉を巻く料理や木の葉を用いた料理が世界中に存在することを紹介。さらに、地元の食の魅力を発信してきたデンマークのレストラン「ノーマ」のシェフ、レネ・レゼピは、近年は醤油や唐辛子など国外の食材にも注目していると語る。おいしい「食」は世界に広がっているのだ。

MAD 著 クリス・イン 編 中村佐千江 訳 KADOKAWA ¥3,132(税込)