Penが選んだ、2019年2月の注目カルチャー

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    クリエイティブを刺激する、本、映画、音楽を紹介する「Penが選んだ注目のカルチャー」。注目すべき作品を、一挙にご紹介します。



    [BOOK/本] 文:今泉愛子

    アアルトやモリスが手がけた、“あの家”のすごさを解明。
    『図解 世界の名作住宅』

    ウィリアム・モリスのレッドハウス、アルヴァ・アアルトのカレ邸、菊竹清訓のスカイハウスなど海外・日本の巨匠建築家が手がけた住宅を年代順に掲載。モダニズム建築から自然環境を活かした建築が主流となる20世紀まで、住宅建築の流れがよくわかる。イラストは建物と周囲の環境や地形を伝え、屋根を取り除いた内部の俯瞰図で、各住宅の個性は一目瞭然。チュニジアの穴居やトルコの洞窟住居、モンゴルの組み立て式住居など風土に根付いた伝統的な住宅の機能性にも注目したい。

    中山繁信/松下希和/伊藤茉莉子/齋藤玲香 著 エクスナレッジ ¥1,944(税込)

    科学のあるべき姿とは? 天才学者の思考の軌跡。
    『魂に息づく科学 ドーキンスの反ポピュリズム宣言』

    1970年代、生物の進化における遺伝子の役割を解明した『利己的な遺伝子』で、進化学に新しい流れを巻き起こした著者が、これまでのスピーチやエッセイなどをテーマ別に編集。ダーウィンの理論から今日までの進化学の流れを追い、科学のあるべき姿を問う。現代人が高所に恐怖を感じるのに、はるかに危険な自動車の高速運転には恐怖を感じないのは、いつから続く遺伝子によるものかなど、高度な内容にわかりやすくアプローチする。

    リチャード・ ドーキンス 著 大田直子 訳 早川書房 ¥2,916(税込)

    人類はなにを目指すのか、答えは海が知っている。
    『海の歴史』

    欧州を代表する知識人として知られる著者は冒頭で「海には、富と未来のすべてが凝縮されている」と語る。そこで137億年前のビッグバンから現在に至るまで、海が人類とどんな関係を築いてきたかを解き明かす。海の民と呼ばれたフェニキア人、海洋国として栄えたオランダなど海を軸にした世界史、漁業の在り方、海が直面している環境被害の現状、さらに現在の海を巡る国際情勢など多岐にわたるテーマを舌鋒鋭く論評している。

    ジャック・アタリ 著 林 昌宏 訳 プレジデント社 ¥2,484(税込)

    [CINEMA/映画] 文:細谷美香

    自らを金日成だと思う父と、息子が見つけた絆。
    『22年目の記憶』

    1972年、初の南北首脳会談を前に、韓国側で密かに金日成の代役オーディションが行われた。そこで抜擢されたのは、鳴かず飛ばずの役者ソングン。結局、出番はなかったが、22年後に認知症を患い、自分を金日成だと思い込むようになる。同居する息子はソングンに振り回されるが……。ソングンを演じる名優、ソル・ギョングの底力を実感する一作。時代と運命に翻弄された、父と息子の物語が涙腺を刺激する。

    監督/イ・へジュン 出演/ソル・ギョング、パク・ヘイルほか 2014年 韓国映画 2時間8分 シネマート新宿ほかにて公開中。

    © 2018 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

    英雄になりたかった男の冒険を描く海洋ドラマ
    『喜望峰の風に乗せて』

    ひとりでヨットに乗り込み、無寄港で世界一周を競うゴールデン・グローブ・レース。ビジネスマンのクローハーストは賞金と名誉のために、アマチュアながらもレースへ参加する。スポンサーの協力も得るが、彼を待っていたのは苦難の連続だった。実在の人物・クローハーストを演じたのは、『英国王のスピーチ』のオスカー俳優、コリン・ファース。ヒーローになりたかった男とその家族の物語が胸にしみる海洋ドラマだ。

    監督/ジェームズ・マーシュ 出演/コリン・ファース、レイチェル・ワイズほか 2017年 イギリス映画 1時間41分 TOHOシネマズ シャンテほかにて公開中。

    © STUDIOCANAL S.A.S 2017

    過去と現代の悲劇を、重ね合わせた野心作。
    『未来を乗り換えた男』

    ドイツ軍に占領されかけていたパリから逃れ、マルセイユにやって来た青年。とあるなりゆきで亡命作家になりすました彼は、メキシコへと旅立とうとする中、報われることのない恋に落ちる。『東ベルリンから来た女』などで知られるクリスティアン・ペッツォルト監督が、ナチス占領下が舞台の小説を現代に置き換えて映画化。過去といまを場所を介してつなぎ、戦争と難民問題という悲劇をスリリングに描き出している。

    監督/クリスティアン・ペッツォルト 出演/フランツ・ロゴフスキ、パウラ・ベーアほか 2018年 ドイツ・フランス合作映画 1時間42分 ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開中。

    ©Schramm Film

    [MUSIC/音楽] 文:山澤健治

    日本人の琴線に触れる、格別なシティ・ポップ感。
    『ライン・バイ・ライン』

    初来日公演も好評だった、ロンドンのシティ・ポップ・バンドによるEP第3弾。ヒップホップ・プロデューサー、クラシカル・コンポーザー、ハウスDJ、シンガー・ソングライターからなる異色の4人組だが、日本人の琴線に触れるツボを得たシティ・ポップ感は格別のひと言。少年の面影を残すハイトーン・ボイスが甘酸っぱいメロディと重なり、極上のAORへと昇華する。洒脱さは半端なし。

    プレップ ARTPL-108 プランチャ ¥1,944(税込)

    70sソウルにモダンなポップの混じる、NY発の傑作。
    『リヴィング・ルーム』

    NY発、ローレンス兄妹率いるソウル・ユニットの2作目。映画音楽界でも活躍する兄と女優業もこなす妹はまだ20代前半。だが、カーク・フランクリンばりの濃密なコンテンポラリー・ゴスペルとスライ流儀のミディアム・ファンクが並ぶ冒頭の2曲だけで、年齢や肌の色は忘却の彼方へ。70年代ソウルに現代的ポップセンスを混合した音づくりに心奪われる。モダン・ヴィンテージ・ソウルの傑作。

    ローレンス PCD-24801 Pヴァイン ¥2,592(税込)

    新世代アジア音楽から届いた、幻想的なインスト
    『コミューン』

    ロンドンを拠点とする、シンガポール人エレクトロニック・アーティストのデビュー作。霞むような音像のアンビエントや穏やかなピアノのエチュードなど、美しくも幻想的なサウンドはどこまでも安らかで心地よい。その優しい響きには、森の中を浮遊する音の粒子が共鳴したかのような温もりさえ覚える。大陸を駆け抜けるようなビートトラックも威風堂々。新世代アジア音楽の花がまた開いた。

    キン・レオン AMIP-0159 インパートメント ¥2,592(税込)