水原希子インタビュー|挑戦を恐れずに生きる、自分を掘り下げながら【創造の挑戦者たち#53】

  • 文:久保玲子
  • スタイリング:小蔵昌子
  • ヘア&メイクアップ:白石りえ

Share:

挑戦を恐れずに生きる、自分を掘り下げながら

文:久保玲子 スタイリング:小蔵昌子 ヘア&メイクアップ:白石りえ
53

水原希子

モデル/女優

●1990年、アメリカ生まれ。2003年、雑誌『Seventeen』専属モデルとしてデビュー。海外ブランドのアンバサダーを務める。10年映画『ノルウェイの森』で俳優デビュー。TVドラマの他、映画『ヘルタースケルター』(12年)、『あのこは貴族』(21年)などに出演。

モデル、女優、デザイナーとマルチな才能を発揮しながら、水原希子は自由でポジティブなパワーを放ち続ける。役者としては『ノルウェイの森』でデビューして、今年で11年目。2月に公開された映画『あのこは貴族』では門脇麦と堂々と渡り合い、清々しい風を映画に吹き込んだ。水原は言う。

「『ノルウェイの森』は、私と役の背景に似通ったところがあったからキャスティングされたんだと思いますが、私自身は未だに自分を役者だと思っていなくて。スキルもないのに、このような作品に出演していいのかと20代前半は迷いの日々でした。そんな葛藤の中で出合った『あのこは貴族』は、地方から東京に出てきて居場所や未来を探す役柄が自分とフィットしたんです。よい意味で緊張せずに、すっと入っていけた感覚がありました」

迷いから一歩踏み出した彼女が次に身を投じたのが、中村珍の漫画『羣青』を原作にしたネットフリックス映画『彼女』。水原は、高校時代から恋慕している七恵(さとうほなみ、「ゲスの極み乙女。」ドラマー)のために殺人を犯すヒロイン、レイ。何不自由なく見える暮らしを捨て、レイは死に取り憑かれた七恵とともに逃避行する。

「ある意味テストのような、と言うと監督や関係者の方々に失礼ですが、自分がこれから役者でやっていくかどうか、果たして自分はここまで剥き出しにして、激しくゆれ動く感情を表現し続けられるのか。役者としてのチャレンジというか、これでダメなら諦めることも覚悟して挑んだ作品でした」

コロナと『彼女』を経て、生と死をとても意識した。

監督は『ヴァイブレータ』『さよなら歌舞伎町』を撮った名匠、廣木隆一。DVや差別、同性を愛していることを周囲に打ち明けられない苦しみを抱えた人物たちの、魂の彷徨とカタルシスを焼きつける『彼女』はレイの衝撃的な覚悟で幕を開ける。

「レイが七恵の夫と対峙する冒頭はとにかく七恵を救いたい一心で、他に感情はなくただひたすら任務を遂行するような感覚でした。デコボコなふたりがロードトリップを通して、トラウマや恐怖、見返りを求めない愛といったさまざまな感情がすれ違い、少しずつ互いのことを理解していき、たくさんの負のイメージを剥ぎ取ってゆく。美しく、実に独特な世界の映画です」

長いトンネルを疾走するようなロードムービーには、水原のラブコールに応えた細野晴臣の「ポジティブなエネルギーあふれる」曲が寄り添う。

「コロナ、そして『彼女』を経験した後の数カ月間は、自分の中でいろんなことが削ぎ落とされ、生と死をとても意識した時間でした。人生、なにが起こるかわからないから、自分の心の声にしっかり耳を傾けていきたい。20代前半に役者になるとは思わなかった私が、多くの人に自分を引き出してもらい、知らない世界を見せてもらった。多くのことを学ばせてもらって、これからはチャレンジすることを恐れずに生きたいと改めて思いました。その分、なぜそれを世に出したいのか、どんなメッセージを発信していきたいかを自分の中で掘り下げていきたいとも思っています」

時折、はにかんだ微笑みを浮かべながら、その澄んだ大きな瞳は未来を見据えて輝いている。天真爛漫な20代から30代に入り、足元と世界を見つめて円熟味を増してきたカリスマ。そんな彼女がさらに羽ばたき、新たに挑む表現に期待したい。


Pen 2021年5月1日号 No.517(4月15日発売)より転載



Netflix映画 『彼女』

裕福な家庭で育ち仕事も恋も順調なレイが、10年ぶりに初恋の相手・七恵と再会。久々の出会いを喜んだのもつかの間、夫からDVを受け死を口にする七恵に、レイは愕然とする。

監督/廣木隆一 
原作/中村珍『羣青』 出演/水原希子、さとうほなみ ほか 2021年
日本映画 2時間22分 4月15日よりNetflixにて全世界同時独占配信