創造のコラボを経て、いま私の音楽をつくる時。

創造のコラボを経て、いま私の音楽をつくる時。

文:新谷洋子 ヘア&メイク:TAKAI
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エルムホイ

アーティスト

●1992年、山梨県生まれ。日本人の父とアイルランド人の母をもつ。2015年にソロ名義のファースト・アルバム『Junior Refugee』を発表。現在はmillennium paradeの他、ふたりの女性アーティストと結成したバンド、Black Boboiのメンバーとしても活動している。

ファースト・アルバムを発表してから6年、ここにきてermhoi(エルムホイ)と名乗るシンガー・ソングライター兼トラックメイカーの存在を、多くの人が知ることになった。ソロ活動のかたわらでバンドを掛け持ちし、他にも多様なプロジェクトにその美声を提供する彼女。なかでも、常田大希率いるmillennium parade(以下MP)の一員として多数の曲を歌ったことで、知名度を一気に上げた。さらに、4月2日公開の清水崇監督のサイコ・スリラー映画『ホムンクルス』では、念願の劇中音楽にも初挑戦している。

「そもそも映画音楽が面白いと思ったきっかけは、実家にサントラ盤があった映画『アメリ』でした。楽譜を入手してピアノで練習していたのですが、音楽だけでも楽しめるんです。映画を観たからこそ、その音楽に対して自分がもつ感情があって、音楽だけを切り取った時にもそれが感じられる。私は記憶が宿った音楽が好きなので、その感覚に近いのかもしれません」

念願の映画音楽では、想像力が連鎖していった。

今回はバンド、WONKのキーボード奏者で同じくMPの一員の江㟢文武との共作というかたちをとった。音楽を専門的に学んだ江㟢はピアノ主体のクラシカルな志向。DIYでエレクトロニック表現を掘り下げてきたermhoiはシンセサイザーを駆使し、異なる音楽的出自を活かしている。

「最初にそれぞれの担当を振り分けたんですが、あとで音源を交換して、クロスオーバーすることも多かったです。たとえば、ピアノを使いたくなって私が雑に弾いた部分を彼に弾き直してもらったり。想像力が連鎖して、どんどん世界が広がっていきました」

劇内で彼女が聴かせるのはもっぱら、ソロ作品の繊細な表現とは一線を画した、不穏なテンションを醸す硬質なサウンド。各シーンの心理的な含みをすくいとり、ときにグロテスクでさえある映像と競い合うようにして、強烈なインパクトを刻む。「オリジナル作品をつくっているミュージシャンが映画音楽を手がけると、絶対的に個性が反映されて、それが映画と合致した時には奇跡のような結果になる」ともermhoiは語ったが、『ホムンクルス』はまさにそういう成功例だ。

「やり過ぎたかなと思う箇所もあったんです。でもすごく刺激的な映画なので、完成した作品を観たら、全然大丈夫でした(笑)。監督もかなり自由を許してくださって、音や構成にしても、ジャンルにしても、やりたかったけど実行していなかったことを試してみたら、すんなり受け入れてもらえた。音に対する思考も深まりましたね」

こうして作曲家というレイヤーを新たに得た彼女は目下、この数年の体験を踏まえ「名刺になる」ソロの新作を制作中だ。大勢のミュージシャンを巻き込みメジャーな舞台で活動するMPに対し、ソロでは引き続き、ひとりだからこそ可能な独創的な音楽を追求する。だが一方で、先鋭的なアイデアを間口の広い楽曲に落とし込む常田の手腕にも刺激を受けたそうだ。

「私はわかりにくい表現をしがちで、そこには自分についてあまり言い切りたくない気持ちが働いているんです。でも『表現すること』とはコミュニケーションであり、伝えやすくするのは優しさの表れですよね。そして自分の地盤をいい形で固めるためにも大切なこと。私も自分を正しく理解してもらいたいですし、次のアルバムは入りづらい場所にせず、入り口は大きく開いているけど奥が深い──そんな作品にしたいです」


Pen 2021年4月15日号 No.516(4月1日発売)より転載


『ホムンクルス』

カルト的人気を誇る、山本英夫の漫画を映画化。
監督/清水崇 原作/山本英夫『ホムンクルス』 出演/綾野剛、成田凌、内野聖陽ほか 音楽/ermhoi、江﨑文武 2021年 日本映画 1時56分 4月2日より公開 Ⓒ2021 山本英夫・小学館/エイベックス・ピクチャーズ

『Thunder』

今年連続で発表したソロEPの第2弾。「貯めていたエネルギーを外に出し、“コロナからの覚醒”みたいな仕上がりに」
ermhoi https://lnk.to/ermhoi_Thunder

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