音楽をつくり、社会に対しアクションを起こす。

音楽をつくり、社会に対しアクションを起こす。

文・新谷洋子
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篠田ミル

作曲家/DJ

●大阪府出身。同じ大学で出会ったメンバーと2015年にyahyelを結成し、サンプラーを担当。『Flesh and Blood』(16年)と『Human』(18年)の2枚のアルバムを発表し、海外ツアーも精力的に行う。そのかたわらでDJ/プロデューサーとしても活躍の場を広げる。Twitter:@shinoda_man

新型コロナウイルスの感染拡大に伴うイベント中止や施設の閉鎖で、文化芸術の関係者が苦境に陥っていた今年3月末。音楽界からいち早く窮状を訴えたひとりが、篠田ミルだった。「文化は人間が人間であるための存立条件」と語る彼は、クラブやライブハウスが安心して営業を休止できる支援を国に求める運動、#SaveOurSpaceの発起人として奔走した。本業はインディ・バンド、yahyel(ヤイエル)のメンバーであり、DJとしても活動する。

「僕の場合、ミュージシャンとして自分自身が脅威を感じたというより、小さな町の中にあるハコがいろんなシーンの豊かさを担保しているのに、そういう場所が生き残っていけないこと、淘汰されて仕方ないものになっていくことが、とても怖かったんですよね」

そう話す彼が、以前から抱いていた問題意識を強め、行動に駆り立られたきっかけは、5年前に遡る。

「原体験は、安保法に反対するあのSEALDsの運動でした。試しにデモに行って、自分と同じ世代の子たちが声を上げている姿を見て、なにかしらアクションを起こさなければと感じました。英米のアーティストが当たり前のようにそういう活動に関わっていることにも影響されましたね」

まずは昨年、志を同じくするDJのMars89と「プロテストレイヴ」を計画。踊ることで抵抗の意思を示すデモの形態だが、彼らは抗議の対象を特定せず、日本の若者に自由な自己表現を促すことを目標に掲げた。

「海外では各地で行われているし、単純に自分がいる街で大きな音を出して踊れたら楽しいだろうなと思ったんです(笑)。日本ではそもそも、デモに参加することや自分の意見を主張すること、自分の好きなように踊ることに、みんな抵抗があると感じて、それを実践するきっかけになればというコンセプトにたどり着きました。踊りたければ好きなように身体を動かしていい、言いたいことがあれば言っていい。すべては身体性において関連しているのだという話を、Mars89君としていたんです。この経験が、#SaveOurSpaceにもつながりました」

結果的には、渋谷と新宿で行った2度のレイヴを大成功させた。しばらく動きがなかったyahyelも、ここにきて活動を再開。「いまの状況下でライブを行う前例になれば」との思いも込めて、8月に思い切って300人限定のライヴを敢行した。また、大学院の修士課程で電子音楽の歴史を研究した篠田は、近年ますますエレクトロニックな表現に傾倒。プロデューサー業にも本格的に乗り出し、最近はラッパー、RinsagaのEP『輪』でその腕前を披露している。

「プロデュース・ワークで人の魅力を掘り下げる中で、自分の表現を見つけていくのはすごく楽しいし、自分個人の作品も長い目線でつくりたいです」

アクティビスト活動も変わらず忙しく、次のプロジェクトは来年3月に開催予定の『D2021』なる謎めいたイベントだ。坂本龍一が主宰する脱原発を訴えるフェス『NO NUKES』の発展形と位置付けられ、篠田も企画に関わっている。

「歴史を振り返ると、ウッドストック・フェスティバルをはじめ、フェスは音楽をやるだけの場所じゃなかった。1日なり2日なり、ひとつの場所で一瞬だけ出現する実験的社会、みたいなフェスの在り方がありますよね。いまの社会に対するオルタナティヴななにかを、そこで提案できるのではないかと考えています」


Pen 2020年11月15日号 No.507(11月2日発売)より転載


『輪-Rin-』

5月に登場した同世代のラッパー、RinsagaのデビューEP。全5曲のうち、4曲を篠田がプロデュース。陰影の深いサウンドからは、ポストパンクからダブステップまで篠田の音楽遍歴が聴き取れる。
Rinsaga
https://linkco.re/dn8HmmDg

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