「信じる」とはなにか。頑張る自分は信じていい。

  • 文:久保玲子

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「信じる」とはなにか。頑張る自分は信じていい。

文:久保玲子
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芦田愛菜

女優

●2004年、兵庫県生まれ。07年に芸能界デビュー。10年にドラマ『Mother』で注目を集め、『うさぎドロップ』『阪急電車 片道15分の奇跡』(ともに11年)で第54回ブルーリボン賞新人賞を史上最年少で受賞。声優やテレビ・パーソナリティなど幅広く活躍する。

3歳でデビューし、天才子役として人気を博した芦田愛菜。16歳を迎えた彼女の6年ぶりとなる主演映画は、大森立嗣監督作『星の子』。作家、今村夏子の同名小説の映画化だ。芦田は、撮影時の自身と同年齢である中学3年の林ちひろを演じる。両親は病気続きだった娘・ちひろを治したと信じる宗教に傾倒していく。

「ちひろ独りのシーンで私はどんな表現をしたらいいのかと考えて、すべてを伝えることだけが演技じゃないと気付いたんです。メリハリをつけるというか、足し算だけじゃなく、引き算することも大事なんだと。学校では友達や先生、家庭では両親の前で無理しているちひろがいて。でも独りでいる時は少しもの思いに耽って、自分はどうすればいいのかと考えている。台詞よりも表情で伝えること、ガーッて言う台詞よりもボソッとしたつぶやき。今回の私にとっての挑戦でした」

宗教に入れ揚げどんどん貧乏になりながら、ちひろに愛情を注ぐ両親(永瀬正敏と原田知世)。幼なじみの複雑な家庭を理解して、ありのままを受け止める親友のなべちゃん(新音)。ちひろが憧れるイケメン教師(岡田将生)。そしてちひろの両親が心酔する宗教団体「ひかりの星」の青年部幹部(黒木華と高良健吾)……。豪華な共演陣は、ちひろの周りを衛星のように取り巻いて、思春期のヒロインにそっと示唆を投げかける。

「脚本を読んだ時、信じることってなんだろうって。実は誰かを、あるいは自分を信じる時の“信じる”は、そうあってほしいと人や自分に期待することじゃないかと思いました。だから違う結果が出た時、裏切られたという気持ちが湧き上がるけれど、それは信じたことにならない。本当に信じるって、どんな側面が見えても揺るぎなく受け止められること。一方でそれはとても難しく、揺らいだり、周りの意見に流されたり。だから人は『信じます』とあえて口に出して、裏切らない相手に期待を託そうとするんじゃないかと思うんです」

新興宗教を背景に描きながらも白黒つけることなく、ちひろ自身が信じるものを選び取る自由を描く物語は、とても懐深く、新鮮だ。

「印象に残っているのは、黒木華さんとの共演シーン。『気付いた人から変わっていく』とか『ちーちゃんがここにいるのはあなたの意思じゃないのよ』という台詞は、ちひろが自分や宗教について考えるきっかけになる存在であり、言葉でした。宗教について悩んでいたちひろが、皮肉にも宗教に助けられるんです」

「信じること」を問う映画を演じ切った芦田だが、彼女自身が信じるものはあるのだろうか。

「信じるのは自分自身の努力です。たとえ思うような結果にならなくても、頑張った努力や、努力の過程で得たものは、いつか、どこかで実になる。頑張ること、頑張る自分を信じていいのかなと思っています」

6歳の時に出演し、脚光を浴びた坂元裕二・脚本のテレビドラマ『Mother』に「芝居に向き合う姿勢と、私は演じることが好きなんだということを教えられた」という芦田。『星の子』に刻みつけた女優としての成長は、『Mother』を出発点に、天賦の才に甘んじることなく、幼い頃から努力に努力を重ねた結果だと思い知らされる。


※Pen 2020年10月1日号 No.504(9月15日発売)より転載


『星の子』

中学3年のちひろの両親は、病弱な幼い彼女を救ったという新興宗教に心酔する。家は貧乏になるものの家族仲よく暮らすちひろは、新任のイケメン先生に恋をするが……。©2020「星の子」製作委員会

監督・脚本/大森立嗣
原作/今村夏子『星の子』
出演/芦田愛菜、永瀬正敏、原⽥知世ほか 2020年 日本映画 1時間50分
10月9日より全国で公開。