ポール一本で宙に舞い、力強く「上昇」する。

ポール一本で宙に舞い、力強く「上昇」する。

文:吉田けい
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小源寺 亮太

ポールダンサー

●福岡県出身。ポールダンスを始めて3カ月で初舞台、6カ月でプロのポールダンサーと なり、8カ月で大会に出場。2014年のPOLE KING JAPANで優勝して以来、国内外で受 賞を重ねる。数々のショーに出演するほか、指導者としてポールダンスの未来を担う。instagram:@kogepiii

まっすぐ垂直に伸びた金属製のポールに、そろりと足指を絡めたかと思えば、くるくると回転しながら登っていき、そのまま大きく開脚した状態で静止する。しなやかな動きを目で追っているうちに、ポールはしだいに存在感を消し、重力から解き放たれた身体が宙を舞っているように見えてくる。

いまや世界トップレベルのダンサーのひとりに数えられる小源寺亮太と、ポールダンスとの出合いは偶然だった。

「クラブイベントで男性のポールダンスを見たんです。その頃はアパレルで働いていましたが、ダンスは趣味で10代から続けていて。自分もやってみたいと思い、舞台から楽屋へ戻るダンサーさんを引き止め、その場でポールダンス教室を紹介していただきました」 

ただ見ている時は、こんな奇想天外な動きは自分にできるはずがないと思った。しかし力学的な原理を知った上で試してみると、意外にできるとわかり、うれしい。その達成感がポールダンスにハマった理由だ。

「早く上達したくて、死ぬほど練習しました。まだ経験が浅いうちからショーや大会に出ては、撮った動画を帰りの電車の中で見て、悔し泣きしてましたね。でも、ステージにいる間は宙に浮いているようで気持ちいいし、天に向かって上へ上へと上昇していく感覚があって。そのうちにポールを常に触っていたい、ステージに立つチャンスを逃したくない、という思いが強くなり、アパレルの仕事を辞めてプロのダンサーに転向しました」

2014年の国内大会で優勝して以来、国内外で受賞を重ね、20年2月にシドニーで開催された男性だけの国際大会では、見事優勝を果たした。世界から高く評価され、見ている者を幻想的な世界へと誘い込む小源寺のステージ。実は、その演出要素のひとつとなる衣装やヘアメイクまでも、自らが手がけている。

「自分ひとりで抱えてしまうのは苦しさもありますが、イメージ通りのものがつくれるし、もし結果が出なくても誰かのせいにしなくて済む。すべての表現が自分のものだと言い切れることが、僕の武器でもありますね」

ひとつのステージをつくり上げるプロセスは毎回異なる。音源から広げていく場合もあれば、衣装に使う生地の質感がヒントとなる場合もある。その時に湧き上がってきたテーマをもとに、ポールに触れ、肢体を動かし、音源、振り付け、衣装、ヘアメイクなどイメージの断片をつなぎ合わせていく。

「自分の中でイメージをはっきりさせておかないと、見た時になにも伝わらない気がして。だからいつもテーマをもって、ストーリーやビジュアルを明確に表現するようにしています」

小源寺は、自らの活動を通して社会におけるポールダンスの認知度が向上することを願っている。

「まだ卑猥なイメージが残っていて、他のアスリートと同じくストイックに身体を鍛え、技を磨いているのに、理解されずに悔しい思いをすることもあります。ポールダンスの世界は日々進化していて、ポールアートと呼ばれる芸術性の高い演技から、競技としてのポールスポーツまで、表現はさまざま。ポールダンスの奥深さを知ってもらうには、実際に見ていただくのが第一だと思います」

人を惹きつけ、ファンを増やしながら、さらなる高みを目指す小源寺。その「上昇」は止まらない。


Pen 2020年5月1日号 No.495(4月15日発売)より転載


『MR POLE DANCE INTERNATIONAL 2020』

2月8日にオーストラリアのシドニーで開催された、男性だけのポールダンス国際競技大会で優勝を果たした。「ずっと出場してみたかった憧れの大会で賞をいただけてとても光栄です」

ポール一本で宙に舞い、力強く「上昇」する。