ボズ・スキャッグスの3年ぶりの新作が完成。 ‟ミスターAOR”は、いまなぜブルースを歌うのか?

  • 文:赤坂英人

Share:

渋さと甘さを併せもつ声で”AORの帝王””ミスターAOR”とも呼ばれる歌手、ボズ・スキャッグス。その彼が3年ぶりのアルバムを発表しました。新作の題名は『Out of the Blues (アウト・オブ・ザ・ブルース)』。日本盤にはオリジナル曲から、ニール・ヤングの「オン・ザ・ビーチ」やブルースの名曲「アイヴ・ジャスト・ガット・トゥ・フォゲット・ユー」など11曲を収録。レイ・パーカー・ジュニア(ギター)をはじめ名うてのミュージシャンたちと録音した、ボズ・スキャッグスの音楽的原点を巡る高揚感と開放感に満ちたアルバムとなっています。

スキャッグスは、500万枚以上を売り上げて大ヒットとなったアルバム『シルク・ディグリーズ』(1976年)をはじめ、『ダウン・ツー・ゼン・レフト』(77年)、『ミドル・マン』(80年)、『アザー・ロード』(88年)など、優れたアルバムを各年代で発表してきたシンガーです。そしてグラミー賞最優秀R&B楽曲賞を受賞した「ロウダウン」や、「ウイアー・オール・アローン」をはじめ、多くのヒット曲をもつまさに‟ミスターAOR”です。そうした洗練された都会派のイメージのある彼ですが、実は子ども時代から、R&B、ソウル、ブルースなどアメリカの根底にある音楽に魅了されてきたのです。

彼は1944年、アメリカ・オハイオ州の生まれです。そして幼少期をテキサス州ダラス近郊で過ごします。「少年時代にはラジオから聞こえるレイ・チャールズや伝説的ブルース歌手のボビー・ブルー・ブランド、ジミー・リードの歌に心酔していた」と言います。

近年は、ジャンルを超える活動を展開しています。たとえば、2003年には驚くべき完成度をみせるジャズ・アルバム『バット・ビューティフル』を制作。いきなり並み居るジャズ・シンガーたちを抑えて、全米ジャズ・アルバム・チャートで6週1位を達成。08年には、スキャッグスしか歌えないと言われる傑作ジャズ・アルバム『スピーク・ロウ』を制作。ジャズの名曲、スタンダードを歌ったアルバムには、ロックやジャズといった音楽ジャンルの壁を変幻自在の歌い方で飛び越えるヴォーカリストの「歌」がありました。

今回の『アウト・オブ・ザ・ブルース』のように、スキャッグスが音楽的出自、ルーツをたどる方向性を明確に見せたのは、13年にリリースされたアルバム『メンフィス』だといわれます。ブルースやソウル、ロックンロールの発祥の地と言われるテネシー州メンフィスにある歴史的スタジオ「ロイヤル・スタジオ」で録音されたソウルフルなアルバムです。その発表時に制作意図について聞かれて、彼はこんなことを語っていました。

「シンガーに徹するアルバムをつくりたかった。歌って楽しい曲を歌う。気に入っている曲である必要はない。こういうタイプというしばりもない。歌うことが楽しい、と思える曲だ。歌うことだけを考えたアルバムをつくりたかったんだよ」

「シンガーに徹する」。おそらく、この言葉は新作の核にもなっているものでしょう。『アウト・オブ・ザ・ブルース』を聴きながら、流石だなと思ったことがあります。ブルースの感覚でアルバム全体を構成しながら、過去に回帰するニュアンスが全くないのです。むしろ、ブルースという懐かしい鉱山に行って、新しい未知の鉱脈を探そうという、攻めの雰囲気が強烈に漂っているのです。そこにこそ、スキャッグスが少年時代から強い影響を受け、音楽的バックボーンになっているブルースを、改めて歌う彼の真骨頂があるのでしょう。

『Out of the Blues(アウト・オブ・ザ・ブルース)』
ボズ・スキャッグス
UCCO-1196 
ユニバーサルミュージック 
¥2,808(税込)