【プロが薦めるいま読むべき3冊】文筆家・清田隆之が選んだ〈ジェンダー〉の本

  • 写真:岡村昌宏(crossover) 文:吉田けい

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右:『男社会がしんどい』田房永子 著 竹書房 2020年 ¥1,100 痴漢犯罪がなくならない背景や家事分担の不公平などを例に、ひとりの女性の視点から「男社会」の悪影響について分析したエッセイ。女性たちの苦しみを生み出している社会構造をわかりやすく解説している。
中:『フェミニズムはみんなのもの』ベル・フックス 著 堀田 碧 訳 エトセトラブックス 2020年 ¥1,980 フェミニズムとはなんなのか、どんな運動なのか、を明快に記したコンパクトで読みやすい入門書。昨今の新しい世代によるフェミニズムの高まりを受け、約20年前に書かれた第二波フェミニズムの名著が復刊。
左:『これからの男の子たちへ』太田啓子 著 大月書店 2020年 ¥1,760 ふたりの男の子を育てる女性弁護士が、セクハラや性暴力被害者の代理人としての仕事や、子育て経験から得た視点をまとめた作品。男らしさを押しつける社会に疑問を投げかける。対談では清田自身も登場。

「桃山商事」というユニットを組み、コラムやラジオで男女に関する話題を発信し人気を集める清田隆之。近年関心が高まるジェンダーの話題について積極的に取り上げ、男性目線でわかりやすく解説している。

そんな清田が選んだのは、ジェンダーやフェミニズムについて関心を抱いた時に、まずは入門の書として手にとってほしい3冊。1冊目はコミックエッセイ『男社会がしんどい』だ。

「男社会とは、つまり男性優位社会のことですが、その構造が見事にやわらかいタッチで図式化されています。まるで女性が土に埋められていて、その養分で育った草花の上で男性が寛いでいる、みたいな。女性の目線を経由しないと、痴漢や性暴力の問題は男性には見えてこない。見えてこないからこそ、『なんか女性たちが俺たち男に怒ってる、怖いな』となってしまう。女性たちに見えている景色を追体験できる貴重な本だと思います」

2冊目はアメリカで約20年前に書かれた『フェミニズムはみんなのもの』。

「フェミニズム運動は、性差別に反対し、性差別的な抑圧や搾取をなくそうとするもので、女性が男性を攻撃するものではない、ということが明記されています。読んでいると、男らしさの規範や常識に従って生きている自分が見えてくるんですが、そうして自分の中の差別意識を見つめ直すことからフェミニズムが始まると書かれている。これを読んで、友人やパートナー、仕事仲間と自分自身の感覚や価値観について話し合うのもいいと思います」

そして3冊目は、弁護士ママの育児書『これからの男の子たちへ』。

「若い男の子が性差別のある社会構造を知り、ハラスメントをしない男性に育つよう土台づくりをしましょう、という提案がなされています。きっと息子をもつ男性読者には、育て方のひとつの指針として役立つ本です。そうでなくとも、自分が男の子だった時に社会からどう扱われてきたのかを客観視できるので、自身への理解も深まる。ジェンダーの本を読むことで、社会からの扱われ方によって自分に染みついた意識や考えを見直すと、必要以上に男性である自分を責めなくていいことにも気づけると思います」


Pen2020年11/1号「心に響く本」特集よりPen編集部が再編集した記事です。

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清田隆之●1980年、東京都生まれ。2001年に結成した「桃山商事」で「失恋ホスト」として悩み相談に耳を傾け、それをコラムやラジオで紹介している。近著に『さよなら、俺たち』(スタンド・ブックス)。

Pen2020年11/1号「心に響く本」特集よりPen編集部が再編集した記事です。