大人も一緒に学べる! 人気書店5軒が選んだ、知的好奇心を刺激する絵本。

  • 写真:青野 豊
  • 文:藤村はるな

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人気書店の店主たちが選びぬいた5冊の絵本。鮮やかなイラストとやわらかな文章を通じ、宇宙や自然、生命のしくみまで、自分たちの周囲を取り巻くさまざまな不思議と出合えるはずだ。Copyright © 2007 by Robert Sabuda and Matthew Reinhart

外出自粛に全国的な学校休校。せっかくの大型連休も、子どもたちは自宅で退屈をもて余すはず。しかし、視点を変えれば、家の中でゆっくり過ごす時間は、絶好の読書タイムともいえる。そこで全国の人気書店の名物店主たちに、科学や自然などをテーマとした、子どもの知的好奇心を刺激する絵本をピックアップしてもらった。子どもだけではなく大人だって、手にすれば思わずページをめくってしまう絵本が勢揃いだ。


1.ブックハウスカフェの茅野由紀さんが薦める、『月でたんじょうパーティをひらいたら』
2.リーディンライティンブックストアの落合博さんが薦める、『絵とき ゾウの時間とネズミの時間』
3.イトヘンの鰺坂兼充さんが薦める、『はじまりが見える 世界の神話』
4.ちいさいおうちの越高一夫さんが薦める、『みずとはなんじゃ?』
5.しかけ絵本のメッゲンドルファーの嵐田さん一家が薦める、『メガビースト 絶滅した獣たち』

絵本の構成は、ストーリー仕立てで楽しめるものから、図解入り、さらには飛び出す仕掛け絵本まで。個性豊かな5冊が揃った。普段は本を読まない子どもでも、思わずページに目を奪われてしまうこと間違いなし。

ブックハウスカフェの茅野由紀さんが薦める、『月でたんじょうパーティーをひらいたら』

もし本書タイトルのような夢を実現できたら……。そこで起こり得る事象を明るいタッチで教えてくれる。『月でたんじょうパーティーをひらいたら』ジョイス・ラパン 著、シモーナ・チェッカレッリ 絵、廣済堂あかつき 2019年 ¥1,760(税込)

「もしも、月で誕生日パーティーを開いたら」という想定のもとに、「ケーキのろうそくはつくのか?」「『だるまさんがころんだ』をしたらどうなるか?」など、地上では普通に感じる出来事が、宇宙空間でどう変化するのか紹介していく。

地球では“当たり前”の出来事が、宇宙空間で起きた途端に“当たり前”ではなくなる。そんな不思議を描くのが、「ブックハウスカフェ」の茅野由紀さんがお薦めする『月でたんじょうパーティーをひらいたら』。月の上ではケーキのろうそくはつかないし、「だるまさんがころんだ」をしようにも声が伝わらずにうまくいかない。誕生日パーティーという身近な題材を取り上げて地球と宇宙を比較することで、宇宙空間がどのようなものかイメージできるのが本書の魅力。また、ストーリーと同時並行で「1961年に人類を月に着陸させる『アポロ計画』が始まりました」など、豆知識が随所に追記されていて大人も勉強になる。「物語としても知識本としても読めて、何度でも繰り返し楽しめる絵本」と茅野さん。読後は、「自分だったら月でこんなことをしてみたい」と、子どもと一緒に語り合ってみてはいかがだろうか。

茅野由紀(ちの・ゆき)●本の街・神保町に立つ、子どもの本専門店「ブックハウスカフェ」店長。児童書や絵本をこよなく愛し、さまざまなメディアで子ども向けの本や読書をテーマに発信している。

「ブックハウスカフェ」は、書店だけでなく、カフェとバーも併設し、大人もゆっくり寛げる。キッズスペース、授乳・おむつ替えスペースなど、幼児から安心して利用できる設備が充実。その他、ミニギャラリーやイベントホールのレンタルなども受け付けている。

ブックハウスカフェ
東京都千代田区 神田神保町2-5 北沢ビル1F
TEL:03-6261-6177
営業時間:11時~21時(月~金) 11時~19時(土、日、祝)
不定休(2020年4月末現在は臨時休業中、ネット販売受付中)
www.bookhousecafe.jp

リーディンライティンブックストアの落合博さんが薦める、『絵とき ゾウの時間とネズミの時間』

第一線で活躍する研究者や専門家が、世界にあふれる謎を子どもたちに向けて解説する『たくさんのふしぎ』シリーズから、歌う生物学者として知られる本川達雄が生命の時間にフォーカスを当てた1冊。絵は、『あらしのよるに』などで知られるあべ弘士が担当。『絵とき ゾウの時間とネズミの時間』本川達雄 著、あべ弘士 絵、福音館書店 1994年 ¥1,430(税込)

小さなネズミから大きなゾウまでの「体重と食事量」や「体重と心臓1回の鼓動や呼吸の時間」などの相関性を、グラフでわかりやすく解説してくれる。物語が進むにつれて、実は動物の体重や食事量、寿命などには、ある相関性があることが明らかになっていく。

小人の国に流れ着いたガリバーに、「どれだけの食事量を用意すればいいのか? 表面積から割り出すべきか? それとも体積か?」と論じる小人の国の王様や博士のエピソードから始まり、小さな体の生き物と大きな体の生き物の生命の秘密を解き明かしていく。読み進めていくと、短命なネズミも長寿なゾウも、それぞれの時間軸で見れば、実は寿命に違いはないという衝撃の事実が明らかに。本書を紹介してくれた浅草の書店「リーディンライティンブックストア」の落合博さんはこう語る。「大きな動物と小さな動物の寿命は違う。けれど、違いには合理的な理由があり、優劣があるわけではありません。それは、人間の世界も同じであることを教えてくれます」。生命科学への知識欲を掻き立てられるだけではなく、「他者の視点に立って考える大切さ」も本書を通じて知ることができそうだ。

落合博(おちあい・ひろし)●浅草の田原町で営む「リーディンライティン ブックストア」店主。新聞記者として30年以上キャリアを築いた後に、同店をオープン。著書に『こんなことを書いてきた―スポーツメディアの現場から』(創文企画、2015年)がある。

「言葉」「食」「ジェンダー」など、落合さん自身がテーマごとに選んだ新旧の本が並ぶ。作家による読書イベントやライティング個人レッスンも予約制で開催。子どもの文化普及協会を通じて買い取った児童書棚も必見だ。

リーディン ライティン ブックストア
東京都台東区寿2-4-7
TEL:03-6321-7798
営業時間:12時~18時
定休日:月
http://readinwritin.net

iTohen ブックス ギャラリー コーヒーの鰺坂兼充さんが薦める、『はじまりが見える 世界の神話』

世界中で神話や伝説として継承されてきた“世界のはじまり”を、それぞれの土地の文化、言語、芸術、歴史、社会を専門とする20人が綴る。日本や沖縄、アイヌを含む世界各国の創造神話を通じて、世界の成り立ちや人類誕生への知識欲が高まるはず。『はじまりが見える 世界の神話』植 朗子 著、阿部海太 絵、創元社 2018年 ¥2,057(税込)

南米のマヤ神話では、人間はトウモロコシから生まれ、シベリアでは竜巻から生まれたといわれている。各国で誕生した神話や伝説を、鮮やかなイラストとともにひも解くことで、人間の想像力がいかに壮大なのか知ることができる。温かみあるタッチで描かれた絵は、インディペンデント・レーベル「Kite」などで知られる画家の阿部海太さんによるもの。

「世界ってどうやってできたの?」。そんな素朴な疑問に「神話」という観点から答えるのが、「iTohen ブックス ギャラリー コーヒー」の鯵坂兼充さんが紹介する『はじまりが見える 世界の神話』。本書では、20人の専門家たちが解説する20か国の「世界のはじまり」を読み比べることができる。解明できないものを、なんとか説明しようとしてきた人間の発想力に思わず舌を巻く。インターネットで簡単に結論が出てしまう時代だからこそ、子どもとともに読んでおきたい一冊だ。もちろん、画家の阿部海太さんによるイラストレーションも見どころのひとつだ。鯵坂さんは「世界中の複雑怪奇な神話を『知りたい!』という知的好奇心が、彼の絵によって掻き立てられます」と語る。

鯵坂兼充(あじさか・かねみつ)●カフェギャラリー「iTohen ブックス ギャラリー コーヒー」を2003年にオープン。一方でグラフィックデザイナーとしても活躍し、作家のサポートやプロデュースも行っている。

大阪市北区本庄西に構える「iTohen ブックス ギャラリー コーヒー」。カフェスペースでは、本や施設内の作品を眺めながら、コーヒーや軽食を堪能できる。

iTohen ブックス ギャラリー コーヒー
大阪市北区本庄西2丁目14-18 富士ビル1F
TEL:06-6292-2812
営業時間:11時~18時
※展示期間中の土~月のみ営業(2020年4月末現在は臨時休業中)
http://itohen.info

ちいさいおうちの越高一夫さんが薦める、『みずとはなんじゃ?』

2018年に92歳でこの世を去った、『だるまちゃん』シリーズや『からすのパンやさん』などで知られる絵本作家・かこさとしさんの遺作。『みずとはなんじゃ?』かこ さとし 作、鈴木まもる 絵、小峰書店 2018年 ¥1,650(税込)

「人間の体は60~70%が水で出きている」「水がなければ地球の気温は大きく変わってしまう」など、水の重要性をわかりやすく伝えていく。

長野県松本市で40年にわたって愛され続ける児童書専門店「ちいさいおうち」。店主の越高一夫さんのお勧めは、絵本作家のかこさとしさんの遺作となった『みずとはなんじゃ?』。身のまわりに存在する水が、どのような性質をもつ物体なのか。また、生活や地球とどう結びついているのかを、ユーモアあふれるイラストとともに綴っていく。「普段何気なく飲み、使っている水。本書を読めば、そんな水について子どもも大人も理解を深めることができます。お子さんと一緒に読む場合は、自分が知っているエピソードを交えながら読むと、より楽しんでもえらえるはずです」。なお、本書のところどころに作者のかこさんと思われる人物や、親世代にもなじみ深いあの人気キャラクターが登場。子どもと一緒に探してみるのも醍醐味のひとつだ。

越高一夫(こしたか・かずお)●出版社勤務の後、1980年に長野県松本市にて児童書専門店「ちいさいおうち」を開店。全国各地でブックトークや講演などを通じ、読書推進活動も実施している。『朝日新聞』朝刊に掲載されている「子どもの本棚」の選書も担当。

2020年、オープンから40周年を迎える「ちいさいおうち」。海外絵本の原書が揃う点などにも注目だ。その他、遠隔地の住む子どもたちを対象に、年齢別にセレクトした絵本や本を定期的に送るブッククラブも運営する。

ちいさいおうち
長野県松本市沢村3-4-41
TEL:0263-36-5053
営業時間:10時~18時30分(火~土) 10時~18時(祝)
定休日:日、月
www.chiisaiouchihon.jp

仕掛け絵本専門店メッゲンドルファーの嵐田さん一家が薦める、『メガビースト 絶滅した獣たち』

仕掛け絵本作家として世界的にも有名なロバート・サブダとマシュー・ラインハートによる立体・古生物百科3部作の最終巻。絶滅した動物たちのポップアップとともに、生態を最新科学による盛りだくさんの解説で紹介する。『メガビースト 絶滅した獣たち』ロバート・サブダ&マシュー・ラインハート 作・絵 わく はじめ 訳 大日本絵画 2007年 ¥4,180(税込)

空飛ぶトカゲから、氷河期を生きたマンモスなど、古生物のポップアップが、ページを開くたびに飛び出してくる。ダイナミックながらも、何重にもつくり込まれた立体的でカラフルな仕掛けに、誰もが圧倒させられる。Copyright © 2007 by Robert Sabuda and Matthew Reinhart

本を読むのは苦手……という子どもでも、必ず目を奪われてしまうのが、この『メガビースト 絶滅した獣たち』。推薦するのは、鎌倉に構える仕掛け絵本専門店「メッゲンドルファー」の嵐田さん一家。「仕掛けが非常に精巧です。絶滅してしまった生き物にはかつてどんなものが存在していたのかを、わかりやすくポップアップで教えてくれます」。翼竜のエウディモルフォドンや哺乳類の祖先といわれるキノグナトゥスなど一見、難しそうな名前が並ぶが、鮮やかなポップアップや随所に記された解説を読めば、すっと頭に入っていく。絵本を開けば立ち上る生き生きとした獣たちの姿は、子どもたちの心に焼き付くはずだ。

右から、嵐田康平(あらしだ・こうへい)、嵐田晴代(あらしだ・はるよ)、嵐田一平(あらしだ・いっぺい)●仕掛け絵本に対する強い思いから、康平さんと晴代さんのふたりで2006年に鎌倉で日本初の「しかけ絵本専門店」を開業。現在は長男の一平さんが加わり家族3人で切り盛りしている。

『不思議の国のアリス』『くまのプーさん』などの名作から大人向けのアート本まで、700種以上の仕掛け絵本が揃う「メッゲンドルファー」。店名は、仕掛け絵本の父と呼ばれるロタール・メッゲンドルファーに由来。

宇宙の不思議や生命の神秘。世界の成り立ちや、水の恩恵。そして、かつて地球に息づいていた古代生物たちの物語。大人であっても「知らなかった!」という声が漏れてしまう、数々の知識が詰まった絵本たちを、今回は紹介した。未知の世界に対する好奇心が旺盛で発想力豊かな子どもと一緒に読み、思考を深めていくことは、“内なる自分”の思考に向かう時間にもなる。“外の情報”にばかり気を取られがちないまだからこそ、絵本を開いて、豊かな時間を過ごしてほしい。

メッゲンドルファー
神奈川県鎌倉市由比ガ浜2-9-61
TEL:0467-22-0675
営業時間:10時~18時
定休日:水(2020年4月末現在は臨時休業中、ネット販売受付中)
www.meggendorfer.jp

※掲載した各店の営業日時・内容などが変更となる場合があります。事前に確認をお薦めします。