思いっきり読書に浸れる、いま話題のブックカフェへ。<後編>

  • 写真:榊 水麗
  • 文:和田達彦

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本をじっくり楽しみたいならば、そのための“場所”が重要だ。ドリンクや軽食を手に読書に浸れるブックカフェをご存知だろうか? いま人気となっているブックカフェを、各店長がお薦めする一冊とともに紹介する。(前編の4軒はこちらから!


ふるいち トキワ荘通り店 ━━漫画の聖地・トキワ荘にまつわる、コミックや書籍が読み放題。

商店街の一角に佇む店舗。店の裏側にも出入り口を用意しており、豊島区立トキワ荘マンガミュージアムのある南長崎花咲公園に直接アクセスすることができる。

豊島区立トキワ荘マンガミュージアムの開館に合わせ、今年3月にオープンした当店。店内には手塚治虫や藤子不二雄、赤塚不二夫、石ノ森章太郎といったトキワ荘出身の漫画家関連のコミックや書籍など、約3000冊が所狭しと並ぶ。飲み物を頼めばコミックは読み放題で、購入も可能。また絶版になっているコミックも数多く取り扱う。「読んでいるうちに続きが気になって、まとめて購入されていくお客様もいらっしゃいます」と店長の上杉洋介。運営を行っているのは、全国に「古本市場」など約100店舗を展開する「テイツー」。古書業大手のネットワークを活かし、欠品期間をできるだけ少なくできるのは強みだ。

コミックや書籍の他、オリジナルのキーホルダーやアクリルパネルなどグッズも販売。

トキワ荘関連の新刊書籍も取り扱う。

ミュージアムのある南長崎花咲公園に隣接するこの店。実はトキワ荘漫画研究家の小出幹雄が営んでいたスエヒロ堂時計店の店舗をリノベートしたものだ。「商店街の広報でもある小出さんは、開館に際して店を畳むことを決心されました。ミュージアムには物販や休憩コーナーもなかったため、お土産も揃えるカフェとして来館者の受け皿になる場をつくろうと考えたようです」。店頭には小出が長年をかけて蒐集した、他では見ることができないトキワ荘関連の資料の一部も展示されている。

藤子不二雄の『まんが道』でお馴染み「チューダー」のベースと言えば三ツ矢サイダー。サイダーに桜ジュレや食用花びらを入れてアレンジしたオリジナルドリンク「桜舞うサイダー」¥385とコーヒー¥330(すべて税込)。

店内のカフェスペース「EDEN」の名前は、かつて商店街にあった喫茶店の名を引き継いでいる。トキワ荘の漫画家たちが憩いの場所にしていたという風情を感じながら、飲み物とともに漫画やコミックをゆっくりと楽しむことができるはずだ。

ふるいち トキワ荘通り店の店長・上杉洋介

古書の中にはレアな絶版本も含まれる。上杉が手にしているのは、石ノ森章太郎ファンクラブの会報誌『石ノ森ノーツ』。「本来、非売品のものですが、この店ではトキワ荘関連の記事を抜粋しまとめた資料など、一部を販売しています」


【関連書籍】『石ノ森章太郎とサイボーグ009』ペン編集部 編

ふるいち トキワ荘通り店

東京都豊島区南長崎3-9-21
TEL:03-3951-4560
営業時間:11時~18時(火~金)、10時~18時(土、日、祝) 
定休日:月(祝日の場合は翌平日)
https://furu1.info/tokiwa-so

神保町ブックセンター ━━純喫茶スタイルのカフェで、 岩波の書籍をとことん堪能。

純喫茶スタイルのカフェスペース。特徴的な岩波文庫の背表紙を眺めながら、ゆっくりした時を過ごせる。また道路に面した窓際にはカウンター席も用意されている。

神保町の岩波ブックセンター跡地にオープンして話題となったこの店は、書店、喫茶店、コワーキングスペースの複合施設だ。店内には、絶版本を除く岩波書店の書籍のほぼすべてが揃う。「ネットで売っていない本もあるため、遠方からのお問い合わせも多くいただきます」と店長の永礼(ながれ)欣也。この店は岩波書店と直接関係はない。とはいえ、この場所は岩波書店創業の地。土地の文化を大切にしたいという強い思いから、岩波の本を全冊置こうと決心したという。また他の出版社の書籍も、テイストを合わせて時事、人文系を中心にセレクトを行う。

靖国通りに面しており、古書探索の合間にも寄りやすい。

棚にびっしり並べられた岩波文庫は、間違いなく日本一の在庫数。このほか学術書から児童書に至るまで、岩波書店の書籍約9000冊が揃う。

食事とともに店内の本を自由に読むことができる喫茶スペースは、どこか懐かしさを感じさせる落ち着いた雰囲気だ。「神保町は昔から喫茶店が多い街なので、レトロ感を残しながら現代風にアレンジしています。またどこか懐かしく、若い世代の方には新鮮なあんみつやバターサンドなどのメニューも人気。もちろん年配の方にも楽しんでいただけると思います」

サラダ、ヨーグルト、コーヒーなどが付く「トーストセット」¥500(税込)。メニュー表は岩波文庫のデザインを模したユニークなもの。

またコワーキングスペースでは、ワークラウンジ、パーソナルデスク、サービスオフィスの3つの会員プランが用意されている。本に囲まれたワークラウンジは¥1,980で1日利用が可能。出版社の多い場所柄もあって、フリーの編集者やライター、漫画家などの利用者が多い。またワークラウンジでは、岩波書店の書籍イベントなど、著者を招いたトークイベントや読書会などを定期開催。本好きならばぜひ来店を勧めたい。

神保町ブックセンターの店長・永礼欣也

普段は人文系、岩波文庫なら青を読むことが多いという永礼。推薦してくれた本はショウペンハウエルの『読書について他二篇』(岩波書店)。「読書の在り方や、書籍に対しての向き合い方を改めて認識させられる一冊です」


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神保町ブックセンター

東京都千代田区神田神保町2-3-1 岩波書店アネックス 1~3F 
TEL:03-6268-9064
営業時間:9時~20時(月~金)、10時~19時(土、日、祝)
無休
www.jimbocho-book.jp

KAIDO books & coffee ━━かつての宿場町に佇む店は、 独自の品揃えと企画展が面白い。

田中の蔵書が壁全面にぎっしりと並ぶ2階は、学校の図書館を思わせる雰囲気。落ち着いて調べ物に集中できる。執筆中の自著の資料を求めに訪れる作家も多いという。

かつて東海道の品川宿があった地の商店街に、5年前にオープンした「KAIDO」。宿場町にまつわる本を独自にセレクトし、いま注目を集めるブックカフェだ。本のほとんどは、同じ商店街で古書店を営んでいた田中義巳の蔵書。ジャーニーランのトップランナーでもあった田中。全国の街道を自分の脚で歩きながら各地の書店や歴史資料館に立ち寄り、街道について記された本を買い集めた。その数は実に4万冊以上。店頭にはその一部の約15000冊が並べられている。PR会社「しながわ街づくり計画」社長で、当店の店長も務める佐藤亮太はこう語る。
「商店街の活性化について相談されていた私は、旅人が集まり、そして旅立っていく宿場町だったこの地にちなみ、“旅”をテーマにした拠点をつくりたいと考えていました。そんな時に田中さんがご自身の店を閉めるという話を聞いて、北品川の財産である彼の蔵書をなんとか活かしたいと思ったんです」

地域ごとに分類された蔵書。「店頭にない本でも、気軽に相談してください」

店では田中の蔵書に加え、新刊書籍や全国の自治体などから寄贈された書籍、全国の民芸品や雑貨も販売している。「この店の本を読むことでその地域に行ってみたくなったり、興味のある場所について相談に乗れるような、コンシェルジュ的存在にしていきたいですね」。

読書しながら食べられるものを追求してたどり着いたホットドッグ。「やるからには日本一を目指しました」というこだわりの一品。「KAIDOドッグ」¥600(税込)、サラダとドリンク付きのランチセットは¥950(税込)。

1階では定期的に旅、冒険、地域などのジャンルに特化した企画展示も実施。今後は2階のスペースを活用してワークショップや勉強会、ドキュメンタリーフィルムの上映会なども開催が予定され、街の活性化にひと役買う。

カフェスペースの1階では新刊書籍や雑貨も販売。

KAIDO books & coffeeの店長・佐藤亮太

お薦めの本は『考える脚』(角川書店)。「『クレイジージャーニー』でも知られる北極冒険家、荻田泰永さんの本。極限状態での思考は、普段の生活に置き換えても共感できるポイントがたくさんあり、心にぐっとくるものがあります」


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KAIDO books & coffee

東京都品川区北品川2-3-7
TEL:03-6433-0906
営業時間:10時30分~17時(月)、10時30分~20時(水~金)、10時30分~19時(土、日)
定休日:火
https://kaido-booksandcoffee.tumblr.com

こちらの記事は、2020年 Pen 11/1号「人生に必要なのは、心に響く本。」特集よりPen編集部が再編集した記事です。