今年は新たな発想を武器にする! クリエイティビティを刺激する本5冊。

  • 写真:宇田川 淳
  • 文:今泉愛子

Share:

多忙な年の瀬の日々を乗り越えて迎えた新年。やりたいことを再確認し、自分なりの戦略を思い描くこの時期に、ぜひ読んでほしい5冊を紹介します。知識や経験だけに頼っていては進化が難しい時代にあって、大切にしたいのはクリエイティビティ。豊かな発想とはどこから生まれてくるのかが見えてくる5冊です。


1.『クリエイティブ・スーパーパワーズ』――革新者の言葉の強さを噛みしめる。
2.『熱帯』――幻の小説を完成させるのは誰なのか?
3.『卓越したグラフィックデザイナーになる』――実務を支える理想の教科書。
4.『建築家の隠された生活』――誠実に、時にはわがままに天職を楽しむ方法。
5.『自炊力』――現代人に必要なのは、料理力ではなく自炊力。

『クリエイティブ・スーパーパワーズ』―― 革新者の言葉の強さを噛みしめる。

『クリエイティブ・スーパーパワーズ』ローラ・ジョーダン・バーンバック、マーク・アールズ、ダニエル・フィアンダカ、スコット・モリソン 編 河尻亨一 訳 左右社 ¥2,484(税込)

「私たちは変化につぐ変化に毎日圧倒されている」と編者のひとりは言います。大切なのは新しい挑戦をすること。だけど、それは簡単なことではありません。

本書に登場するのは、世界のトップクリエイター18人。地域も活動分野もバラバラながら、みな自分でなにかを始めた人たちです。ビジネスシーンでアートの活用法を開拓する「ストリート・ウィズダム」創立者、南アフリカのクリエイティブディレクター、ノイズミュージシャン、帽子デザイナー、そして日本からは、NTTドコモのプロモーションビデオ「森の木琴」で知られるクリエイティブディレクターの原野守弘(もりひろ)。彼らが自身の経験から、つくる力、ハックする力、学ぶ力、パクる力などについて語ります。本書が目指すのは、課題をクリエイティブな方法で解決すること。なにかを規制したり、我慢したり、慮ったりして無難に解決することではありません。

だから、時には挑戦的です。原野守弘は、最初に「知りすぎるな」と呼びかけます。「知れば知るほどあなたが創造性を発揮できるエリアは狭くなっていく」と。しかし私たちは知ることから逃れられない情報社会の中にいます。ではどうすれば? その答えを18人全員が用意しています。正直なところ、簡単に真似できることばかりではありません。でも、言葉をインプットしておくだけで、やがてどこかでなにかが芽生えます。新年は、そんな準備に当てたいものです。

本書で言う「パクリ」とは、他人の脳を活用して自分の才能を開花させること。

『熱帯』 ――幻の小説を完成させるのは誰なのか?

『熱帯』森見登美彦 著 文藝春秋 ¥1,836(税込)

森見登美彦の小説を読んだことのある人なら、この作品もまた一筋縄ではいかないことは想像がつくでしょう。でも今回はいつも以上です。一体全体なにがなにやらなのですが、それでもしっかり小説として成立させてしまうところが彼のすごいところ。

登場人物たちは佐山尚一なる人物が書いた『熱帯』という幻の小説を追い求めます。読み終えていないこの小説の続きが気になって仕方がないのです。その点は本書にも登場する『千一夜物語』と似ています。登場人物であるシャハラザードという娘は、王様に面白い話を語って聞かせ「続きが知りたい」と思わせることで首をはねられることを回避しました。物語とは、かくあるべきなのかもしれません。本書も500ページ超という大長編ながら、意外と早く読み終えることができます。

小説の痕跡を追いかけて、京都の古道具屋や珈琲店、居酒屋、古書店と巡り、過去と現在、空想と現実の境界が曖昧になっていく中で、鍵となるのは「創造の魔術」です。その魔術を使えるのは誰か。どんな資質をもつ者が使えるのか。小説は、読んだ人の解釈によって意味が与えられます。面白いのか、つまらないのか、勇気が湧いてくるのか、共感するのか。それこそが「創造の魔術」の始まりではないでしょうか。

読むことは、ただの受け身な行為ではありません。作家と読者の「創造の魔術」つまりクリエイティビティの共鳴によって小説は完成します。年の初めこそ、その楽しさを味わってみてはいかがでしょう。

第1章は「沈黙読書会」。ただならぬことが始まりそうな予感がします。

『卓越したグラフィックデザイナーになる』―― あらゆる実務を支える理想の教科書。

『卓越したグラフィックデザイナーになる』ドリュー・デ・ソト 著 大野千鶴 訳 ビー・エヌ・エヌ新社 ¥2,592(税込)

気張ったタイトルに思えますが、内容は決してタイトル負けしていません。グラフィックデザイナーの仕事を微に入り細に入り解説します。初心者にも有効ですし、中級者にも、そしてグラフィックデザイナーだけではなく、グラフィックデザイナーと仕事で関わることのあるすべての人に役に立つ内容です。

考えること、働くこと、デザインすること、レイアウトすること。実務のあらゆる部分について、著者は懇切ていねいに解説します。過去の不採用作品を取っておくことの大切さを説き、納期に間に合いそうにない時にクライアントに送るメールの文面、さらにフルカラー印刷ではまともなオレンジ色が得られないことまでアドバイスしてくれるのです。それは豊かな発想を引き出すというより、ただの進行管理ではないか。そんな声も聞こえてくるかもしれません。けれどそれらはどれも、クリエイティビティを支える見事な指摘です。素晴らしいアイディアは、どうすれば作品として結実するのか。人に理解されるのか。それが収入に結びつくのか。しっかりとした青写真を描くことで、ますますやる気に火がつくのではないでしょうか。

色や紙について、入稿や出力、印刷、後加工などについても詳細に解説。

『建築家の隠された生活』――誠実に、時にはわがままに天職を楽しむ方法。

『建築家の隠された生活』マイク・ハーマンズ 著 増井彩乃 訳 エクスナレッジ ¥1,620(税込)

好きなことを仕事にできるのは、とても幸福なこと。フォトグラファーやデザイナー、ミュージシャン、そして建築家も、その幸福を享受する人が多い職業です。しかし、好きなことに没頭している時間だけではないのです。仕事としてやるからには、たくさんの調整が必要になります。

本書の主人公、建築家のアーチボルドもそうです。建築に対して真剣であるがゆえ、クライアントの度重なる修正依頼にうんざりし、急な仕様変更で建設業者と対立し、官僚の無理解に苦しみ、息子のなに気ないひと言に傷つきます。

アーチボルドのそんな毎日を漫画にしたのが本書です。著者はアントワープ出身の建築家だけあって、建築家の素性を知り抜いています。登場人物は、共同経営者でいつも冷静なジェラルド、やる気にあふれたインターンのラルフ、建設業者のフレッド、前職は折り紙作家だったという噂のある建築模型士のミスター・シャン、クライアントのユリウス、建築に無関心なアーチボルドの妻シャーロットなど多彩な面々。ストレスフルな日々にありながらもアーチボルドの信念がまったく揺らがない様子を見ていると、元気が湧いてきます。クリエイティビティは、そう簡単にはしぼんでしまわないのです。

主人公のアーチボルドは、いつも黒のスーツを着ています。

『自炊力』 ――現代人に必要なのは、料理力ではなく自炊力。

『自炊力 料理以前の食生活改善スキル』白央篤司 著 光文社 ¥864(税込)

食を大切にすることは豊かに生きること。わかってはいるけれど、コンビニ弁当で済ませることもあれば、一食抜いたり、どか食いしたりするのが多くの人の日常ではないでしょうか。著者が掲げる「自炊力」とは、料理力ではありません。おいしい料理をつくらなくてもいいから、せめて自分の食事を自分でマネジメントしましょう、というのが本書の趣旨です。

コンビニで買って済ませるならその時に、ただ目についたものを買うのではなく、複数の商品を組み合わせればいい。料理に冷凍野菜を使ってもいいし、インスタント食品だってもちろんOK。家に包丁がなくても、醤油がなくてもいいのです。まずは食に興味をもつこと。そしてそれを日常に取り込むこと。やがて買い物が上手になり、献立を思いつくようになり、少しずつ自炊力は身に付いていきます。自炊は、とてもクリエイティブな作業です。

そうするうちに、きっとなにかが変わってきます。それは、朝早く起きられるようになることだったり、身体が軽く感じることだったり。身体と心を整えることで、クリエイティビティはさらに磨かれていきます。

鍋など、身近な食材や簡単な道具であっという間にできるメニューも紹介。