Vol.43 オランダの人気デザインスタジオ、トニック...
写真・文:錦 多希子(POST/limArt)

Vol.43 オランダの人気デザインスタジオ、トニックの25年の挑戦が1冊に。

“Thonik: Why We Design” / Aaron Betsky / Lars Müller Publishers
『トニック:ホワイ・ウィー・デザイン』 / アーロン・ベッキー 他著 / ラーズ・ミューラー・パブリッシャーズ刊

かねてよりオランダ・デザインの面白さについて触れてきましたが、とりわけ圧倒されたのは、第一線で活躍するデザインスタジオが政党の選挙キャンペーンのアート・ディレクションを担うと知った時でした。政治団体が先鋭的なデザイナーにポスター類を依頼したことに、強い衝撃を受けたことを覚えています。

この選挙キャンペーンを担ったのは、アムステルダムを拠点とするデザインスタジオ、Thonik(トニック)。ニキ・ゴニッセンとトーマス・ウィデルスホーフェンが立ち上げたトニックは、おもにビジュアル・コミュニケーション(視覚伝達)やインタラクション・デザイン、モーション・デザインなどを得意とするスタジオとして活動してきました。クライアントの要望やプロジェクトに潜む特色をていねいに抽出し、鮮やかな色彩やアルファベットを用いてごくシンプルなビジュアル・イメージへとアウトプットする。余分な要素が削ぎ落とされた分、本質があらわになった視覚表現はいっそう訴求力を増し、一度見たら忘れられないほどのインパクトがあります。

創設25周年の節目に刊行された本書は、ふたりへのインタビューから始まり、彼らとの対話で出てきた11のキーワードを章立てにして構成されています。「radical(急進的な)」「independence(自立)」「expose(暴露)」「empower(力を与える)」など、いずれのキーワードも彼らの挑戦的な姿勢を鋭く突いており、トニックのデザインに対する理解が深まるでしょう。紹介されているプロジェクトには、彼らのコメントもそれぞれ添えられています。4半世紀にわたる取り組みを包括的にまとめたアーカイブ・ブックです。


※2013年~16年にウィデルスホーフェンが学長を務めたデザイン・アカデミー・アイントホーフェンを紹介した、第12回目の記事はこちらからどうぞ。

オランダ社会党(SP)の選挙キャンペーンでは、「演説をやじる際にトマトを投げる」という抵抗を象徴するロゴから発想転換し、トマトを句読点に起用することで親しみやすいシンボルへと昇華。赤色を効果的に活用しています。

2009年に日本で初めてトニックの展覧会が東京・青山のスパイラルで開催されました。会場となった空間全体を使ったダイナミックな構成が話題に。

アムステルダム公共図書館をプロデュースした際は、ここが集会や交流の場として重要な役割を担う点に着目。縦書き・横書きを組み合わせて垂直・平行を強調した特徴的なデザイン計画を図りました。

“Thonik: Why We Design” / Aaron Betsky / Lars Müller Publishers
『トニック:ホワイ・ウィー・デザイン』 / アーロン・ベッキー 他著 / ラーズ・ミューラー・パブリッシャーズ刊
タイトル:『トニック:ホワイ・ウィー・デザイン』
著:アーロン・ベッキー 他
ページ数:352ページ
サイズ:17.0×24.0㎝
ISBN-10: 303778556X
ISBN-13: 978-3037785560
出版年:2019年
価格:¥6,048(税込)