Vol.37 徹底して「紙」にこだわった、トーマス・デマンドの全作品集。

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    写真・文:中島佑介(POST)

    Vol.37 徹底して「紙」にこだわった、トーマス・デマンドの全作品集。

    “THE COMPLETE PAPERS” /Thomas Demand / MACK
    『ザ・コンプリート・ペーパーズ』/ トーマス・デマンド / マック刊

    ドイツの現代写真の旗手、トーマス・デマンド。彼はオフィスやバスルーム、エスカレーターといった、ごく日常的な光景を写した作品を多く発表しています。しかし、どの写真の中にも人影はなく、均質な印象でどことなく不穏な空気を感じさせます。実は、彼が撮影しているのは実際の光景ではなく、紙で忠実に制作した原寸大の模型。さらに、すべての作品は新聞やウェブなどで掲載されていたイメージをもとに制作されています。小さな写真を原寸大の立体模型として再現し、それを撮影するが故に違和感が生じるのでしょう。
    デマンドは1964年生まれ。学生の頃にインテリア・デザインと彫刻を学び、彫刻家としてキャリアをスタートさせました。93年に写真家へと転向し、紙でつくった模型を撮影するスタイルを確立していきます。そして瞬く間に美術界から注目され、2003年にはベネツィア・ビエンナーレに参加。世界各国の美術館で個展が開催され、第一線で活躍する作家となりました。
    この本には、デマンドが模型を使って作品制作を始めた1994年以降の全作品が収録されています。彼と友好的なパートナーシップを結んでいる出版人のマイケル・マック率いる、MACKから刊行されました。ポイントは、本の折々にインデックスとして差し込まれたさまざまな色紙。色紙は他のページのように綴じられておらず、本に挟み込まれているだけなので、自然に紙という存在を読者に意識させます。紙が重要な素材となっているデマンドの作品と親和性のあるブックデザインとして、一役を買っているのです。
    アートブックは、単なる資料的価値だけでも、本そのものを作品化したような奇抜な装丁だけでも成立しません。その両方を兼ね備えたものが、未来に残されていくアートブックとなり得るのではないでしょうか。デマンドの全作品を収録し、かつインデックスでスマートに作家性を表現したこの本から、そんなことにも気付きました。

    均質で不思議な空気感の漂う光景は、すべて紙によって制作されてます。つくられた模型は撮影後にすべて破棄されてしまうそうです。

    インデックスとして挟み込まれた色紙。年によって使われている色紙の素材や色はすべて異なります。

    作品の題材は、歴史的な出来事や事件の報道写真。撮られてニュースとなった現場を、デマンドは紙を用いて原寸大で再現し、撮影します。

    “THE COMPLETE PAPERS” /Thomas Demand / MACK
    『ザ・コンプリート・ペーパーズ』/ トーマス・デマンド / マック刊
    タイトル:『ザ・コンプリート・ペーパーズ』
    写真:トーマス・デマンド
    出版社:マック
    ページ数:560ページ
    サイズ:29.5 x 24.2 cm
    ISBN-13:978-1-910164-90-7
    出版年:2018年
    価格:¥17,064(税込)