Vol.24 「形象美術」の流れを牽引した、スウェーデ...
写真・文:錦 多希子

定期的に海外のひとつの出版社に焦点を当て、その出版社の本だけを取り扱うショップ「POST」のスタッフが、いま気になる一冊をピックアップ。今回、POSTの錦多希子さんが紹介する本は、1980年代末に活躍したスウェーデンの現代アーティスト夫妻の作品集。ふたりのクリエイションが混ざり合った、「形象美術」というジャンルに分類される作品群は、POSTを訪れた多くの人々を魅了しているようです。

Vol.24 「形象美術」の流れを牽引した、スウェーデンアーティスト夫妻の作品集。

Who is sleeping on my pillow / Mamma Andersson & Jockum Nordström / David Zwirner Books
フー・イズ・スリーピング・オン・マイ・ピロー / マンマ・アンダーソン&ヨックム・ノードストローム / デヴィッド・ツィルナー・ブックス

良質な本とのめぐり逢いを通じて見識が広がり、素養が深まって、内面にもいい栄養が行きわたっていく……。これは、この仕事柄ならではのこの上ない役得です。ですが、こうした邂逅を繰り返すうちに、よくも悪くもごく個人的な嗜好が強まっていくのは避けられそうにもありません。こと選書に関しては、ごく私的な観点に頼り切っていたのでは、結局のところ自己満足的で視野の狭いラインアップに陥ってしまうおそれがあります。

2011年にPOSTの取り組みがスタートしてから、これまでに延べ30社近くの出版社を取り扱ってきました。「期間中はひとつの出版社の刊行物しか取り扱わない」という在り方を通じて、探し求めて出向くスタンスとはまた異なる、本との出合いがあることを気付かせてくれました。
選書基準は、その出版社が刊行している本であるということ。やや乱暴な言い方をすれば、「まさにその本でなければいけない」といった必然性は削がれていきます。出版社という視点でふるいにかけられた書籍は、自らの好みとはまったく別の方向から突如やってくる、いわば彗星のような存在です。

この取り組みは、もうひとつ面白い効果がありました。それは、仕入れ時に立てた予想と、実際の店頭での反応とが異なること。お客さまの反響が高いことで、興味を抱くに至った本もあるのです。今回は、そんなお客さまのリアクションをきっかけに、目が離せなくなった一冊をご紹介します。

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