この数年、本を個人規模でも出版できる技術が整いました。またNY ART BOOK FAIRをはじめとするアートブックフェア、自費出版の本も取り扱う書店、SNSやウェブサイトでの発信など発表の場も増えています。「作る」と「届ける」が以前よりも結びついたことは、世界中でアートブックの刊行タイトル数が増えている一因になっているのではないでしょうか。なかでも写真集の刊行が圧倒的に多く、Paris Photoで発表されるAperture Foundation PhotoBook Awardsを筆頭に世界中で開催されているブックアワードなど、写真集自体が表現として評価される対象になっています。

写真集は以前から写真家が作品を多くの人に伝える手段として用いられていましたが、戦後の日本は特にその傾向が強く、また国際的に見ても特殊な進化を遂げていました。その動向を体系的に研究し成果をまとめたのが、この夏に刊行されたばかりの『The Japanese Photobook 1912 – 1990』です。

本書は、世界でも有数な写真集コレクターである、マンフレッド・ハーティング氏と写真史家・写真集コレクターの金子隆一氏の共著としてドイツのシュタイデル社から出版されました。本書内で「日本の写真集の歴史において、真の創意工夫の金字塔がうちたてられた」と定義されている1912年をスタートとして、変遷の一区切りとなる1990年までに出版された写真集を紹介しながら、日本写真史と時代の移り変わりの関係性を論じています。ピクトリアリズムやバウハウスに影響を受けながら写真の表現幅が広くなり、プロパガンダや報道とともに歩みを進めてきたのは他の国と共通する部分がありますが、戦後、特に60年代以降は独自の変化を遂げました。

この時代に海外では写真の図版をきちんと見せる図録としての機能が主軸となっていました。それに対して日本では、撮影した写真をそのまま見せるのではなく、写真集のためにオリジナルの画角からトリミングした裁ち落としの図版が多く使われています。また、海外の写真集は写真一点一点に作品としての強度があるのに対し、日本では、全体の流れを意識した写真セレクトが感じられます。この時代の日本人写真家にとって、オリジナルプリントを見せる展示よりも、写真集がおもな作品の発表手段であり、写真集のためにトリミングするのは当たり前の価値観でした。海外の主流から離れ、ガラパゴス的に進化した日本の写真集は90年代になってようやく海外に知られることとなります。極東で独自に進化した写真集のあり方は全世界にインパクトを与え、その後の写真集のあり方を一変してしまうほどでした。現在のメインストリームとなっている写真集の源流にはこの時代の日本の写真集があったのです。

本書の中で金子氏は「写真家の主体的な表現が『書物』というかたちとなって実現されたものである。言い方をかえれば、オリジナル・プリントに準ずる写真家の表現の最終的なかたち」と写真集を定義しています。「写真家」を「アーティスト」、「オリジナル・プリント」を「作品」に置き換えればアートブックにも同じことが言えます。金子氏の言葉は、今日再発見されている本の重要なポイントが的確に表れています。

過去の名作を知るのは懐古的なだけでなく、新しい発見をあたえてくれる行為でもあります。本書は歴史の学びとともに、感覚を開いてくれる刺激的な一冊です。