Vol.11 いつもと違った目線で、“気付き”を与えてくれるアートブック

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    写真・文:中島佑介

    定期的にひとつの海外の出版社に焦点を当て、その出版社の本だけを取り扱うという独自の選書を展開しているショップ「POST」。そのディレクターである中島佑介さんが、いま気になる一冊をピックアップし、その本について独自の視点で解析します。今回は、人間の感覚を逆手に取ったような仕掛けをもつアートブックが登場します。

    Vol.11 いつもと違った目線で、“気付き”を与えてくれるアートブック

    bird / Roni Horn / Steidl
    バード / ロニ・ホーン / シュタイデル

    ロニ・ホーンは1955年生まれアメリカ合衆国出身、ニューヨークを拠点に活動するアーティストです。作品は彫刻、写真、インスタレーションなどさまざまですが、本を表現手段として用いた作品も彼女の定番スタイルになっています。また、バリエーションに富んだ作品に共通している主題のひとつが「概念と存在の境界線を巡る」というコンセプトです。今回ご紹介する本もウィットに富んだ方法でこの題材を提示しています。

    ↓お風呂上がりの親指ではありません。

    この作品集のタイトルは『bird』ですが、本を開くとタイトルからは想像しなかったユニークな像が写っています。一見すると何なのかわからないこの被写体は鳥の後頭部で、彼女が変わったアングルから鳥を撮影したのには理由がありました。

    人があるものを認識するとき、知覚した存在と、知識としてもっている概念が結びついて認識につながりますが、生活の中では瞬時にそれが何であるかを理解しているので、知覚→認識というプロセスを意識することはありません。ロニ・ホーンは後頭部を鳥として見せることで、鑑賞者が理解に至るまでの過程、概念と存在の境界線を鑑賞者が意識するように誘導しました。

    ページをめくっていくと、冒頭の見開きでは色や形が近い2匹の鳥が対になっていますが、後半へと近づくにつれて徐々に左右の鳥に違いが表れ、似たシルエットをもった2匹の鳥の違いはオス・メスの差によるものであるのを読者は理解します。さらに後半には辞書やことわざ、映画作品やファッションに至るまで、過去に人類が発してきたさまざまな「鳥」に関する引用がまとめられています。個々に独立していた概念の断片をひとまとめにして人類が知識としてもっている「鳥」の多様性を見せつつ、包括的に提示しました。

    また、ロニ・ホーンのアートブックにはもうひとつの仕掛けがあります。彼女はこの『bird』と同じ判型・デザインの作品集を継続して発表し、シリーズ自体がロニ・ホーンという一人のアーティストの表象として機能するアートブックに仕立てています。本の特性を活かしつつ、本自体が多様な表現になりうる実践を継続しているアーティストとして、ロニ・ホーンは特筆すべき表現者だと言えるでしょう。

    bird / Roni Horn / Steidl
    バード / ロニ・ホーン / シュタイデル
    ページ数:32ページ
    装丁:ハードカバー
    サイズ:28.0 × 30.5cm
    商品コード:ISBN 978-3-86521-669-4
    出版年:2008年
    価格:¥7,128