大人の心にこそ響く、珠玉のストップモーション・アニメ『ぼくの名前はズッキーニ』 ​

  • 文:細谷美香

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日本語吹き替え版は峯田和伸、麻生久美子、リリー・フランキーらが声優を努める。

人形やフィギュアなどを少しずつ動かしてコマ撮りしていく、気が遠くなるような作業を経て生まれるストップモーション・アニメ。お馴染みの『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』や、慎ましい友情物語『メアリー&マックス』など、いくつもの名作が生まれているジャンルです。今回紹介するのは、アヌシー国際アニメーション映画祭で最優秀作品賞と観客賞を受賞した、スイス・フランス合作の『ぼくの名前はズッキーニ』。アカデミー賞では長編アニメーション部門候補になり、フランスのセザール賞では最優秀長編アニメーション賞とともに最優秀脚色賞を受賞するなど、各国で高い評価を得ている作品です。子どもが観たらショックを受けるかも……と心配になるほど、なかなかハードな試練が描かれる冒頭からすぐに、大人の心をこそ揺さぶる作品であることがわかるはずです。

ビールを飲んで怒ってばかりいるママが不慮の事故で亡くなり、ひとりぼっちになった少年、イカール。ママにズッキーニと呼ばれていたイカールは、孤児院で暮らし始めます。少年たちからのいじめにあい、ママのところに帰りたいと願うズッキーニ。けれどもやがて彼は、孤児院で出会った仲間たちとの絆を深めていくのです。

ズッキーニなんてありがたくないニックネームを大切にしているイカールが健気で不憫で、青く縁どられた真ん丸の瞳を見ているだけで、ぎゅっと胸がしめつけられました。彼以外にも両親を悲惨な理由で失った子、ドラッグ依存の両親をもつ子など、それぞれが抱える事情と、虐待や暴力による痛みが明かされていきます。お金のために子どもを引き取ろうとする叔母の企みも描かれ、愛に恵まれずに育った子どもたちが暮らす孤児院は、現代社会のミニチュアと言えるかもしれません。けれどもはじめての恋や友情を知るこの場所は、イカールにとって安全でかけがえのないシェルターでもあるのです。

ストップモーション・アニメならではの独特の温かみとエレジーが漂う中、特に素晴らしいのが子どもたちの豊かな表情。悲しみや喜び、寂しさといった感情を観る者にそのまま手渡すようにとても繊細に、ときにはユーモラスに表現していて、一瞬も目が離せなくなります。僕は理由などなく愛されていい存在なのだと、自分の価値を知るまでの子どもたちの心の旅を、ぜひスクリーンで見届けてください。

高さ25cmの人形をひとコマずつ動かして完成したアニメーション。

監督は本作が長編デビュー作となる、スイス生まれの才能、クロード・バラス。

『ぼくの名前はズッキーニ』  

原題:Ma vie de Courgette
監督:クロード・バラス 
声の出演:ガスパール・シュララー、シクスティーヌ・ミュラ、ポーラン・ジャクーほか
2016年 スイス・フランス合作映画 1時間6分
配給:ビターズ・エンド、ミラクルヴォイス
2月10日より新宿ピカデリーほかにて公開。
http://boku-zucchini.jp