コルトレーンの‟失われたアルバム”とは? 2018年がジャズファンにと...

コルトレーンの‟失われたアルバム”とは? 2018年がジャズファンにとって、奇跡的発見の年である理由。

文:赤坂英人

コルトレーンの‟失われたアルバム”とは? 2018年がジャズファンにとって、奇跡的発見の年である理由。

1962年撮影のジョン・コルトレーン。© Chuck Stewart Photography, LLC


将来、2018年はジャズファンにとって、奇跡的発見の年として記憶されるでしょう。なぜなら、ジャズ史上最高のカリスマのひとりといわれるサックス奏者ジョン・コルトレーンの、1960年代に録音した未発表のテープ『ザ・ロスト・アルバム』の全貌が、55年ぶりに明らかになったからです。「それはまるで巨大ピラミッドの中に新たな隠し部屋を発見したようなものだ」と、知らせを聞いたサックス奏者のソニー・ロリンズは言ったそうです。

ジョン・コルトレーン(1926-1967年)は、アメリカ南部ノースカロライナ州に生まれました。信仰心の篤い家庭に生まれ、音楽と出合ったのは教会でした。そこでクラリネットとアルト・サックスを覚え、10代後半でフィラデルフィアに出たコルトレーンは、工場で働きながら音楽学校に通います。その後、徴兵されて海軍軍楽隊に入り、除隊後はサックス奏者としてさまざまなバンドで腕を磨きました。そして55年、当時ジャズ界の第一人者であったマイルス・デイビスが、コルトレーンを自分のバンドに招きます。その後、セロニアス・モンクのバンドを経て、コルトレーンは自らのバンドを結成します。60年、彼がガンで亡くなる7年前のことでした。

コルトレーンは、ピアノ奏者マッコイ・タイナー、ドラム奏者エルビン・ジョーンズ、ベース奏者ジミー・ギャリソンというメンバーで、「黄金のカルテット」と呼ばれる強力なバンドを結成。彼らとともにジャズ史上に残る名演奏を繰り広げ、数多くの傑作アルバムを制作しました。その彼らのスタジオ録音が何故、半世紀以上も埋もれてしまったのか、正確な理由は、実はまだ分かっていません。

言えることは、コルトレーンの全盛期と言って過言ではない63年3月6日、名盤と言われる『ジョン・コルトレーン・アンド・ジョニー・ハートマン』の録音の前日、ニュー・ジャージー州のヴァン・ゲルダー・スタジオで、今回発見された『ザ・ロスト・アルバム』のレコーディングが行われた、ということのみ。しかし、このアルバムはリリースされず。インパルス・レーベルはマスター・テープを親会社であるABCレコードに移管して管理。コルトレーンの死後に、ABCレコードは本社をロサンゼルスに移転。その際、マスター・テープもロスに移動したのですが、その後、何らかの理由でマスター・テープ音源が紛失したのです。

しかし、幸運なことに、コルトレーンは自身の演奏をチェックするために、スタジオ・エンジニアであったルディ・ヴァン・ゲルダーからモノラル録音されたレファレンス・テープを受け取り、家に持ち帰り、一部を妻のナイーマに預けていたようなのです。そして2005年。ニューヨーク・マンハッタンでジャズ・マンたちの遺品オークションが開催され、出品されたコルトレーンの遺品リストのなかにあった謎の録音テープの存在が明らかになりました。その後、詳しい調査が行われ、遺族とレーベル会社が何年もの協議を重ね、18年の発売となったのです。

コルトレーンの‟失われたアルバム”とは? 2018年がジャズファンにとって、奇跡的発見の年である理由。

『ザ・ロスト・アルバム』(通常盤)UCCU-1043  ユニバーサルミュージック ¥2,592(税込)

『ザ・ロスト・アルバム』の通常盤に収録されているのはマスターテイク全7曲(約47分)。1曲目と3曲目がコルトレーン作曲の未発表の新作で、他にスタンダードの「ネイチャー・ボーイ」「インプレッションズ」「スロー・ブルース」などコルトレーン作曲の作品を含む以下のラインアップとなっています。演奏はいつものゴールデン・カルテットのメンバーですが、2曲目、5曲目はピアノ抜きのトリオ編成です。

<収録曲>
1.「アンタイトルド・オリジナル 11383」
2.「ネイチャー・ボーイ」
3.「アンタイトルド・オリジナル 11386」
4.「ヴィリア」
5.「インプレッションズ」
6.「スロー・ブルース」
7.「ワン・アップ、ワン・ダウン」

どの曲も熱い演奏です。この後、絶頂期においてゴールデン・カルテットを解体し、コルトレーンはフリー・ジャズに突き進んで行きます。今回、通常盤とは別に2枚組のデラックス盤が発売されていて、その2枚目にはマスター・テイクとは異なった演奏を聞かせるアナザー・テイク7曲が編集されています。そこには、同名の曲でも演奏する度にそのプレイを劇的に変化させたコルトレーンの飽くなき探究心が見えるようです。彼らの身体から湯気の立つような気迫の演奏は、50年以上前の時代がもつ熱気を感じさせ、なにが本当のジャズなのかと、死に至るまで問い続けたコルトレーンの魂の叫びを伝えています。

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