自らの手で世界をリセットする、現代のパイドパイパーの新譜。

  • 文:森 一起

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『ユートピア』

ビョーク

自らの手で世界をリセットする、現代のパイドパイパーの新譜。

森 一起文筆家

聖と性、少女とファムファタール、天使とマグダラのマリア。ビョークはそのミッシングリンクを、自在に往来するパイドパイパーだ。今アルバムでは、その存在をアピールするが如く、フルートを掲げている。しかし、そこからまず聞こえてくるのはいくつもの鳥たちの声だ。

彼岸で囁くR2D2、あるいはテクノのようにさえずるべネズエラの鳥たち。それは、彼女が持っている70年代ベネズエラのアナログレコードからサンプリングされた。ビョークが所持する湖畔の小屋に訪れるオオハムという美しく大きな鳥たちも、アルバムに参加している。その声は、時にはリアルに、時にはレコードからのスクラッチで天衣無縫に音楽に忍び寄り、70年代のシンセサイザー、メロトロンのように跳ね回る。

鳥の声とフルートとハープ、対照的なエレクトロニックサウンド。それはビョークが想定したユートピアの過去と未来を象徴しながら、神話的な幻想性をアルバム全体に与えている。牧歌的なイメージの象徴として、クラシカルな楽器の中心に選ばれたフルートは、ビョークが4歳の時に初めて手にした楽器だ。イノセントでセクシーじゃないという理由から拒否していた人生初の楽器に、ビョークはセンシュアルな肉体を与えた。

人と人が孤立化し、トランプのツイッターの向うから軍靴が鳴り響く現在、放置したまま通り過ぎた 20世紀のグランドフィナーレに世界が直面している。そんな今、彼女は自分たちの手で世界をリセットしようと呼びかける。現代のパイドパイパーが連れて行くユートピアは、尽きせぬ愛に満ち溢れた自然とテクノロジーが寄り添う場所。

「ループになった過去はもう消して、未来を想像して、そこに入るの♫」 
ユートピアに向かう箱船に乗る準備はできただろうか。

これまでに8枚のスタジオアルバムをリリースし、過去14回グラミー賞にノミネートされたアイスランド屈指のアーティスト。2017年7月のフジロック最終日ではヘッドライナーを務めた。待望の新作『ユートピア』は17年11/24に世界同時発売。

『ユートピア』

ビョーク 
HSE-6486 
ホステス・エンタテインメント 
¥2,689