ワインを触媒としたコミュニティで、 サステイナビリティが伝播する。

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    Takeshi Kobayashi
    1959年山形県生まれ。音楽家。2003年に「ap bank」を立ち上げ、自然エネルギー推進や、野外イベントを開催。19年には循環型ファーム&パーク「KURKKU FIELDS」をオープン。震災後10年目の今年、櫻井和寿、MISIAとの新曲を発表。宮城県石巻市を中心に発信するアートイベント「Reborn-Art Festival」も主催している。
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    【ワイン】
    WINE
    「ap bank」などの活動を通して環境問題に向き合うなど、サステイナブルな社会について考え、行動してきた小林武史さん。その目に、サステイナブルの行方はどう映っているのか。連載13回目のテーマは「ワイン」。小林さんは大のワイン好きで、きっかけはボルドーに代表されるクラシカルなワインのおいしさを知ったこと。その一方で、近年世界中で増えつつあるビオワインの動向にも注目する。できるだけ自然に即した製法を目指すビオワインのつくり手には、環境問題への意識が高い人も多い。「収穫物に耳を傾け、あまり手をかけずに美味しいものを目指していく。そんなビオワインは、ワイン産業の中でオルタナティブな流れをつくり出す勢いがある。この流れは、サステイナビリティに向かう社会の象徴的な例のような気もしている」と小林さんは言う。

    ワインを触媒としたコミュニティで、 サステイナビリティが伝播する。

    森本千絵(goen°)・絵 監修 illustration supervised by Chie Morimoto
    オクダ サトシ(goen°)・絵 illustration by Satoshi Okuda
    小久保敦郎(サグレス)・構成 composed by Atsuo Kokubo

    僕がワインを飲むようになったのは30年くらい前からでしょうか。フランスのボルドー地方に好きなワインが多くて、現地に行ったこともあります。ワイナリーで話を聞くと、ボルドーワインのつくり方は自由度が高かった。基本的にブドウは何種類かの品種をブレンドするし、品質保持のために酸化防止剤を使うのが一般的です。

    一方、近年は「ビオワイン」が注目を集めています。ヴァン・ナチュール、自然派など言い方はいろいろあるし、程度の差もあるけれど、方向性としては有機栽培されたブドウを原料にして、できるだけ添加物は使わない。より自然のまま、というあり方です。だからボトルに詰めたあともワインが生きた状態で、場合によっては発酵が進むこともある。これまではよしとされていなかった変化を許容しているのです。

    ワインが飲まれてきた長い歴史のなかで、つくり手は商業ベースになっていきました。ヴィンテージが価値を生む高級ワインは、投機対象になるほど。「果たしてワインはこのままでいいのか」という流れからビオワインが生まれたのではと考えています。

    食べるということは、命に対する謙虚さや、リスペクトする気持ちと本来は切り離せないものだと思います。ビオワインのつくり手は、そんな思いを強く抱いている人が多い気がします。そして、ビオワインを提供するレストランやバーには、つくり手やワインとの出あいに喜びを感じる人がいます。彼らは、僕らに自分の喜びを触媒のように伝えてくれます。このような形で喜びが次々に伝播していくことが、サステイナビリティにつながるのではないかと思うのです。サステイナビリティを考える時、重箱の隅をつつくように度合いばかり測ろうとする人がいる。でもそれだけでは意識が広まらない。だから日常生活で身近なところ、たとえば食の循環に真摯に向き合う人とつながりのある場に身を置くアプローチも、サステイナブルな流れをつくる上で重要な気がするのです。

    自分の音楽にも共通するところがあります。長年やっているのは、いろいろな要素を組み合わせたボルドー的音楽。でも最近、ピアノだけのシンプルなビオ的な音楽も手がけ始めました。ワインを自分の音楽に重ね、これからどのような広がりを見せるのか注目しています。