これまでをリセットしたような、ノエル御年50の境地。

  • 文:鈴木宏和

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『フー・ビルト・ザ・ムーン?』

ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ

これまでをリセットしたような、ノエル御年50の境地。

鈴木宏和音楽ライター

始まりは、意表をつくインスト曲。ループするギター・ノイズと女性ヴォーカルの呪術的な叫びに、一瞬にして耳を奪われてしまう。もうこの時点で、誰もが予感するに違いない。今作が、過去2枚の大作をも超える驚きと感動をもたらすアルバムであろうことを。もちろん、その予感が外れるわけはない。なんせ相手は、ノエル・ギャラガーなのだから。 

弟リアムの初ソロ作品リリースに合わせるかのように、2年半ぶりに届けられたソロ・プロジェクト3作目。リアムにしろフー・ファイターズにしろ、新作に畑違いとも言えるプロデューサーを迎えて見事な成功を収めているが、ノエルは今回デヴィッド・ホルムズとタッグを組んでいる。DJでもあり映画のサントラなどでも知られるダンス/エレクトロ界の大物だ。 

そして両者の邂逅が、またとない化学反応を呼び起こした。「きっと度肝を抜かれるだろう。まるで俺ではないかのような曲だってあるからね」と自ら語っているノエルは、これまでの自身をリセットするかのように、完全なるネクスト・レヴェルを提示している。極彩色のサイケ・ポップに、熱情ほとばしるソウル。縦笛が奇跡的にマッチした痛快なロックンロールに、一転してダーク・サイドへ引きずり込む劇的なバラード。クールなエレクトロ曲では、女性ヴォーカルのフランス語スポークン・ワードが妖艶に舞い、ブルージーなスロウ・チューンでは同じコード、同じフレーズの繰り返しが催眠術のごとく陶酔へといざなう。 

ただただ圧倒されるしかない全能感、万能感。御年50 で辿り着いた無双の境地に、死角はない。ちなみにボーナス・トラックがまた、これでもか!と言わんばかりの充実ぶりなので、日本盤をお薦めしたい。

元オアシスのメイン・ソングライター/シンガー/ギタリスト。2011年秋、ソロ・プロジェクトを始動。ファースト・アルバムは、オリコン洋楽アルバムランキング1位を獲得。この最新アルバムは、日本では世界に先がけ11/22に発売された。

『フー・ビルト・ザ・ムーン?』

ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ 
SICX97
ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル 
¥2,376(税込)