オーガニックな感触に貫かれた、ダーティー・プロジェクターズの新作『5 EPs』。

  • 文:鈴木宏和(音楽ライター)

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デイヴ・ロングストレス率いる米ブルックリン出身のバンド、ダーティー・プロジェクターズ。2009年に発表した『ビッテ・オルカ』が音楽各誌の年間ベスト・アルバムを総なめにしてブレイクを果たす。のち日本でもフジロックや朝霧JAMに出演。Photo by Jason Frank

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コロナにより、アーティストたちが音楽発信の仕方を模索することとなった2020年。約10年前の一大ブームも記憶に新しい、NYブルックリン・シーンの中心的存在であるダーティー・プロジェクターズは、作品ごとに異なるバンド・メンバーがリード・ボーカルを担当した、計5枚のEPをリリースするプロジェクトを敢行した。約2年ぶりに届けられるニュー・アルバム『5EPs』は、それら5枚すべてをまとめた一作だ。

幕開けは、『Windows Open』。ミニマルなアコースティック演奏と、ハートウォーミングな歌声で紡がれる優美なメロディが寄り添い、文字通り開け放たれた窓からそよぐ風のように心地よく響く4曲が収められている。

次の『Flight Tower』には、洗練を極めたエレクトロ・ソウルが4曲。2020年代型バンドとして、またボーカル・グループとしての真価が存分に発揮されている。

聴くほどに心の襞に染み入っていくような、たおやかな楽曲群に癒やされるのが、昨年他界したボサノバの巨星、ジョアン・ジルベルトに捧げられた中盤の『Super João』だ。ここでの4曲はすべて、テープ録音によるもの。

続く『Earth Crisis』の4曲では、一転してデジタル録音によるカットアップが駆使され、オーケストラ演奏と歌唱を解体/再構築した、エクスペリメンタルな音世界が広がる。

そして、締め括りが『Ring Road』の4曲。複雑で重層的でありつつ、ぴったりタイトな演奏とボーカル・ハーモニーで、進化を重ねてきたバンドの現在地を示す役割を果たしている。

バンドの多面的な魅力を見事に伝える『5EPs』。その中で、あくまで音と声がオーガニックな感触に貫かれているところに、中心人物デイヴ・ロングストレスの信念とも声明とも呼べる気骨を見た気がした。

『5EPs』ダーティー・プロジェクターズ BRC-661 ビート・レコーズ ¥2,420(税込)