いかがわしさと皮肉に満ちた、エネルギッシュなイタリア映画。

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    『LORO 欲望のイタリア』

    パオロ・ソレンティーノ

    いかがわしさと皮肉に満ちた、エネルギッシュなイタリア映画。

    小野寺 系映画評論家

    監督は『グレート・ビューティー 追憶のローマ』『グランドフィナーレ』などを手がけ、イタリア映画界を代表する名匠、パオロ・ソレンティーノ。名優、トニ・セルヴィッロがスキャンダラスなベルルスコーニをけれん味たっぷりに演じている。 ©2018 INDIGO FILM PATHÉ FILMS FRANCE 2 CINÉMA

    イタリアの不動産王でメディア王のシルヴィオ・ベルルスコーニは、累計9年大統領として在任した、輝かしい経歴の持ち主ながら、度を超えた問題人物としても知られている。
    公に自分のことをキリストにたとえたり、当時大統領だったオバマの肌の色を「日焼け」呼ばわりするなどの失言は序の口。マフィアとつながり汚職や脱税を繰り返し、ギャルを私邸に集め自分を賛美する歌を歌わせたりと、その傍若無人なふるまいはドナルド・トランプ以上といえる。
    きわめつけは性スキャンダルで、20歳下の妻を裏切り10代のモデルと浮気。権力者の乱交パーティを意味する「ブンガブンガ」を開催した。
    『LORO 欲望のイタリア』は、そんな性スキャンダルを中心に、老いを迎えた彼の飽くなき肉欲、支配欲、自己顕示欲を、狂乱の宴に集う大勢のギャルたちの歌と踊りで表現していく、絢爛で悪趣味な一大巨編である。女たちで埋め尽くされた圧巻の画面は、かつてのイタリア映画の怪作『ソドムの市』や『女の都』をも想起させる。
    だが本作が、ただのふざけた女性蔑視にまみれた作品でないことは、あまりにも対照的なラストシーンによってはっきりするだろう。監督は、アカデミー賞外国映画賞をはじめ、各国の名だたる映画祭で高い評価を受けるパオロ・ソレンティーノ。本作で彼は、女性の権利が強く叫ばれるこの時代に、あえて女性たちを“物”として扱う描写によって、男性中心主義による女性観のおぞましさの極致を、これでもかと目の前に突きつけてくるのである。
    これほどまでにいかがわしさと皮肉に満ち、さらにエネルギッシュな映画は久しぶりだ。それだけに、この内容が現実と接続されているということに戦標せずにおれないのだ。

    『LORO 欲望のイタリア』
    監督/パオロ・ソレンティーノ
    出演/トニ・セルヴィッロ、エレナ・ソフィア・リッチほか 
    2018年 イタリア映画 2時間37分 Bunkamuraル・シネマほかにて公開中。
    http://www.transformer.co.jp/m/loro/