有名戯曲の誕生秘話に迫る『シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!』は、 舞台愛あふれるコメディ

  • 今 祥枝(ライター・編集者)

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主人公の劇作家を演じるのは、『最強のふたり』で役を得たことを皮切りに出演作が増えてきたトマ・ソリヴェレス。監督・原案・脚本を手がけたアレクシス・ミシャリクは舞台版『エドモン』を手がけた他、俳優、映画監督としても活躍している。 © LEGENDE FILMS – EZRA – GAUMONT - FRANCE 2 CINEMA – EZRA - NEXUS FACTORY - UMEDIA, ROSEMONDE FILMS - C2M PRODUCTIONS

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フランスの劇作家、エドモン・ロスタンによる戯曲『シラノ・ド・ベルジュラック』。17世紀に実在した同名の剣豪作家を主人公にした本作は、19世紀末に初上演され、パリを熱気の渦に包み込んだという。以来世界各国で上演され続けており、1990年のジェラール・ドパルデュー主演映画もよく知られている。

卓越した才能をもつ、詩人で理学者でもある剣豪シラノ。だが大きく醜い鼻ゆえに美しい従妹ロクサーヌへの思いを封印し、美男子だが文才のないクリスチャンの恋文を代筆してふたりの恋の仲介役となる――。

可笑しみを感じさせつつ、ロマンティックで涙を誘う。流れるようなダイアローグや長台詞も役者冥利に尽きる『シラノ~』の伝説は、いかにして生まれたのか?エドモンが悪戦苦闘しながら戯曲を書き上げ、初日の夜を迎えるまでの舞台裏をコミカルに描いた本作『シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!』は、エドモンの体験と執筆中の戯曲が絶妙にリンクしながらアップテンポで進んでいく。

友人で俳優のレオにアドバイスを求められて、衣装係ジャンヌへの愛の言葉を紡ぐうちに、詩心のあるジャンヌの返事にインスパイアされるエドモン。名優コンスタン・コクランに発破をかけられながら見せ場のひとつ「鼻の長台詞」を完成させていくくだりのリズミカルなやりとりなど、にやりとさせられるエピソードの連続だ。

こじれたロマンスの行方も気になるところだが、なによりも危機また危機に直面しながら初日の幕が開く瞬間の奇跡に胸が熱くなる。監督のアレクシス・ミシャリクは演劇畑の才人。15年間温めてきた本作の映画化は、一度は断念したものの舞台劇として再構築して評価を得たことで実現した。題材への深い愛はエンドクレジットの心憎い演出からも伝わってくる。

友人レオが思いを寄せる衣装係ジャンヌ(リュシー・ブジュナー)。© LEGENDE FILMS – EZRA – GAUMONT - FRANCE 2 CINEMA – EZRA - NEXUS FACTORY - UMEDIA, ROSEMONDE FILMS - C2M PRODUCTIONS

オリヴィエ・グルメ演じる名優コクラン(写真)を主演に据えた作品で、エドモンは起死回生を目論む。© LEGENDE FILMS – EZRA – GAUMONT - FRANCE 2 CINEMA – EZRA - NEXUS FACTORY - UMEDIA, ROSEMONDE FILMS - C2M PRODUCTIONS

『シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!』
監督/アレクシス・ミシャリク 
出演/トマ・ソリヴェレス、オリヴィエ・グルメほか 2018年 
フランス映画 1時間52分 11月13日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開中。
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