自ら“闇”を語った心意気に、思わず胸が熱くなる。

  • 文:山澤健治

Share:

『エリック・クラプトン ~12小節の人生~』

リリ・フィニー・ザナック

自ら“闇”を語った心意気に、思わず胸が熱くなる。

山澤健治エディター/音楽ジャーナリスト

ヤードバーズ、クリームなどのバンド期の記録はもちろん、ザ・ローリング・ストーンズ、ザ・ビートルズ、B.B.キングなどの貴重なアーカイブ映像も。ブルースの基本的な構造である「12小節」の探求に生涯を捧げたクラプトンの実像に迫る。©BUSHBRANCH FILMS LTD 2017

苦悩や悲哀のない完璧な人生などといったものは存在しない。影のない人間が存在しないようにね。……たとえ村上春樹がこのように書き出したとしても、ギターの神様と呼ばれた男の過酷で数奇な人生の物語を、ここまでうまく着地させることは不可能だっただろう。『エリック・クラプトン〜12小節の人生〜』は、輝かしい名声と成功の裏で人知れず心の闇を抱えていたスーパースターの人生をクラプトン自らが赤裸々に語り、ライヴ映像やレコーディング風景、さらには日記や手書きの手紙といったプライベートな未発表品など、音楽史を彩る貴重なアーカイブ映像とともに綴る、珠玉の音楽ドキュメンタリーである。  
監督は、クラプトンが音楽を担当した『RUSH/ラッシュ』が初監督作だったリリ・フィニー・ザナック。彼女は、クラプトンの栄光よりもその裏側に流れるもうひとつの物語を紡ぎ出すことに心を砕き、彼の内面に鋭く切り込む。実の母に拒絶され、祖父母に育てられた幼少期。ブルースに心酔し、金や名声よりも音楽性にこだわったキャリア初期。ジミ・ヘンドリックスの死やジョージ・ハリスンの妻パティ・ボイドへの狂わんばかりの恋心と、それらを機にドラッグやアルコールに溺れていく時期。そして心の平穏を手にしかけた時に迎えた、愛息コナーの死。とりわけパティへの思いが「いとしのレイラ」を、コナーの死が「ティアーズ・イン・ヘヴン」を生む、名曲誕生の裏側を重点的に描き出したところに、監督の意図が感じられる。  
クリームなどの迫力のライヴ映像あり、コカインを鼻から吸引する衝撃シーンあり。なにより過去の醜態すらさらけ出すクラプトンの心意気に胸が熱くなる。虚構を超えた、真実のクラプトンに出会う映画だ。

『エリック・クラプトン ~12小節の人生~』
監督:リリ・フィニー・ザナック 
出演:エリック・クラプトン、B.B.キング、ジョージ・ハリスンほか 
2017年 イギリス映画 2時間15分 11月23日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて公開。
http://ericclaptonmovie.jp