「分かりやすい」アプローチで、世界に対する意識が変わっていく。

『新しい分かり方』

佐藤雅彦 著

「分かりやすい」アプローチで、世界に対する意識が変わっていく。

土田貴宏 デザインジャーナリスト/ライター
「分かりやすい」アプローチで、世界に対する意識が変わっていく。

私たちは、世界を「分かること」と「分からないこと」の集合体だと思っている。長い歴史の中で、人々はいままでに多くの謎や不思議を解き明かしてきた。一方で、遠く離れた地域の文化や最新のデジタル技術のように、理解しきれない物事も当然ある。こうして「分かる」と「分からない」に二分することで、私たちはすべてを「分かった」つもりになっているのだ。 

しかし、「分かる」とも「分からない」とも認識されない領域が、実はこの世界には無限にある。そんな領域にこそ、大切な真理が眠っているのかもしれない。木からリンゴが落ちるという、誰も気に留めなかった現象に、万有引力を発見するカギがあったように。 

本書は、こうした意味で世界に対する意識を変えてくれる一冊だ。著者ならではの親しみやすいイラストレーションや写真を多用して、「分かる」と「分からない」の範囲外にあるものを、あくまで分かりやすく伝えている。 

たとえば同じ絵本を、子どもが笑いながら、子鬼が泣きながら並んで読んでいるイラストがある。ここで示されるのは、ある情報(この場合は『桃太郎』のストーリー)が受け手次第で異なる意味をもつという、コミュニケーションの基本的な原理である。お馴染みの昔話でさえ、私たちは本当に分かっているのだろうか。

「分かる」というテーマは、哲学や認知心理学などさまざまなアプローチにより探求されてきた。東京藝術大学大学院教授である著者は、それらの学問にも相当の知識があるだろう。しかし、彼はより多くの人々に伝わる手法で、ビジュアルの力も巧みに活かし、人と世界の間の扉を次々に開いていく。 

アートやデザインを含むあらゆるクリエイションは、根本に人と世界との関係性がある。この本は、創造に向かう人々の力をより豊かにするための、大きな糧になるだろう。

『新しい分かり方』

佐藤雅彦 著 
中央公論新社 
¥2,052

「分かりやすい」アプローチで、世界に対する意識が変わっていく。