五感を総動員して想像する、ゴッホが見ていた世界。

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    『永遠の門 ゴッホの見た未来』

    ジュリアン・シュナーベル

    五感を総動員して想像する、ゴッホが見ていた世界。

    細谷美香映画ライター

    ゴッホの世界に迫ったのは、自身も画家であり、1996年の『バスキア』で映画監督デビューしたジュリアン・シュナーベル。ウィレム・デフォーは本作の演技でヴェネチア国際映画祭男優賞を受賞。2019年のアカデミー賞主演男優賞候補にもなった。 © Walk Home Productions LLC 2018

    これはすごい。ウィレム・デフォーがゴッホにしか見えない。あの自画像のゴッホが動いている──!
    しかし、当然ながら「そっくりさん」をウリにした映画ではない。リアルに感じるのは、外見だけでなく画家の「内側」がとことん追究されているからだ。
    ゴッホを描くにあたってジュリアン・シュナーベル監督は『潜水服は蝶の夢を見る』に通じるアプローチをとった。すなわち主人公が見ている世界をいかに見る人に体験させ、共有させるか。そう、これは見る人が「ゴッホになる」映画なのだ。
     1887年頃のパリ。ゴッホ(ウィレム・デフォー)の絵は「暗い」とまるで評価されない。そんななか南フランスへ行ったゴッホはまばゆい太陽と風景に感動し、創作に没頭する。だが、そんな彼を奇異な目で見る村人も少なくなかった。あるとき村人とトラブルになった彼は、強制的に病院に入れられてしまう──。
    孤独な画家の心理描写に加え、彼の「見ていたであろう世界」を色、音、熱、匂いなど五感を総動員して想像できる。ひまわりの黄色、陽のあたたかさ、草の匂い、ゴウゴウと唸る風の音。遠近両用サングラスからヒントを得たという撮影法は、めまいに似た感覚を起こさせる。
    さらに本作は議論されてきた彼の死の謎にも、新たな見方をくれたように思う。冒頭でゴッホが村の娘に「モデルになって」と迫って怖がられるシーンがあるが、実際にそういうこともあったのだろう。そんな彼が厄介者扱いされ、疎外され、孤立していくさまがたやすく想像できる。地域や社会が彼を「殺した」──のかもしれない。
    すべての解は絵画の中にある。上野の森美術館ではゴッホ展も開催中だ。彼の「目」を体験してから見る絵画は、また違った印象を与えてくれるに違いない。


    『永遠の門 ゴッホの見た未来』
    監督/ジュリアン・シュナーベル
    出演/ウィレム・デフォー、オスカー・アイザックほか 
    2018年 イギリス・フランス・アメリカ映画 1時間51分 
    11月8日より新宿ピカデリーほかにて公開。
    https://gaga.ne.jp/gogh/