女性R&Bレジェンドの流れを汲む、最新ディーヴァの歌声にひたる。

  • 文:速水健朗

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『アンド・イェット・イッツ・オール・ラヴ』

ファティマ

女性R&Bレジェンドの流れを汲む、最新ディーヴァの歌声にひたる。

速水健朗ライター/ラジオパーソナリティ

例えば、ビヨンセは単にファンを多くもつ女性歌手ではない。作家のロクサーヌ・ゲイを始め、フェミニストたちは、彼女を「神」と呼ぶ。引退が記憶に新しい安室奈美恵の盛り上がりも宗教的な熱狂そのもの。
女性歌手たちは、現代における信仰の対象。ディーヴァ多神教時代である。
筆者にも信仰対象とする歌手がいる。シャーデー・アデュ。ナイジェリア出身で英国で活動する黒人女性ボーカル。彼女を中心とするグループ、シャーデーには、カルト度の高さを自覚するファンが多い。筆者もその一人。
ファティマは、そんなシャーデーの信者にとって見逃せない存在だ。スウェーデン出身、英国で活動ののち現在、ニューヨークを拠点とする女性黒人歌手。まだキャリアは長くない。やっと2枚目のアルバムとなる。浮遊感のあるサウンド、憂いを帯びたボーカルといわれると無視できない。
シャーデーに比べれば、昼対応型である。ふわふわとしたエレクトロニックなトラックに軽快に短いフレーズをのせていく「Dang」がベストチューン。不穏なワルツ風リズムに確信的なボーカルを合わせた「Waltz」、珍しく情感をのせまくった「And Yet It, s All Love」の2曲は、メローな佳曲。
過去の女性R&Bからの影響をにじませながらもヒップホップ以降の抜いた発声を駆使する現代のディーヴァ。
ちなみにファティマにも、シャーデーへの目配せはある。2013年の『ファミリー』のMVに登場する彼女の音楽部屋には、シャーデーが表紙の雑誌が飾られているのだ。彼女にとって、あこがれの対象のはずだ。
新時代のディーヴァとしての道を進むが、ファティマは、まだ神々しさよりも気さくな側面が見えるタイプ。フレッシュなうちになるべく多く触れておくことにしよう。

『アンド・イェット・イッツ・オール・ラヴ』
ファティマ 
PCD-24766 
Pヴァイン 
¥2,592(税込)