クラブ音楽とポップを、実験しながら横断する。

  • 文:新谷洋子

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Creator’s file

アイデアの扉
笠井爾示(MILD)・写真
photograph by Chikashi Kasai
新谷洋子・文
text by Yoko Shintani

クラブ音楽とポップを、実験しながら横断する。

tofubeatsトーフビ―ツ
音楽プロデューサー/DJ
1990年神戸市生まれ。高校3年生の時に国内最大のテクノイベントに史上最年少で出演。その後「水星feat.オノマトぺ大臣」が、iTunes Storeシングル総合チャートで1位を獲得。森高千里などアーティストとのコラボ作も多数。

自宅のコンピューターでクラブ・ミュージックをつくり始めたのは、中学2年生の時。27歳にして長いキャリアを誇るトーフビーツ(tofubeats)は、ネットに音源をアップして同志たちと交流し、ファンを集めてデビューを果たしたという、21世紀的ミュージシャンのプロトタイプと呼ぶべき存在だ。
メジャー・デビューしたいまでも、「なんでも自分でやるのが当たり前」という。現在、着々と表現の場を広げており、濱口竜介監督の話題作『寝ても覚めても』ではサントラ制作に挑戦。その主題歌『リバー(RIVER)』を収録した4枚目のアルバム『ラン(RUN)』がこの度発売される。
多数のゲストが参加した最初の2枚のアルバムに対し、前作からはおもに自身の声を用いて意思表示する、シンガー・ソングライター的な表現へと移行。全編ノートパソコンでつくり上げた今回、ゲストはゼロになった。
「その時々の自分を反映させて曲をつくっているうちに、自然に変化が起きたんでしょうけど、僕はそんなに大きく変わったとは感じていないんです。4年前にデビューする前はひとりでやっていたから、元に戻っただけ。大勢の人と共演して勉強し、独りになった自分にフィードバックしたんです」
最近は曲づくりにも新しい試みを取り入れ、「たくさん本を読んでそこから発想することを重視した」と語る。
「特に人文系や社会学の本が好きで、それらを資料にして物語を膨らませるんです。その点、小説には既に物語があるから資料にはならない。『リバー(RIVER)』にしても映画の原作を読み過ぎないよう、川の仕組みに関する本を読むことから始めました」
このように独自の流儀で実験にいそしみ、クラブ・ミュージックとポップを横断する彼のようなアーティストが、メジャー・レーベルと契約する例は珍しい。そうすることで、ひとつの選択肢を提示しているのだという。
「僕はロックには馴染めなかったけれど、テイ・トウワさんや電気グルーヴや、オルタナティヴで難易度の高い作品をつくるアーティストが作品を流通網に乗せてくれたおかげでこういう音楽を知って、いまの自分がいる。だから“インディーズのほうが向いているのでは?”と言う声もありますが、僕みたいな人間が人目につく場所で活動することで、若者が幅広く音楽を知る機会を得て、音楽が好きな人が増えてくれたらと願っています」
HPはこちらから https://tofubeats.persona.co/

works

前作のアルバムから1年4カ月ぶりの最新作、ゲストなしでつくり上げたアルバム『ラン(RUN)』は10月3日に発売される。

※Pen本誌より転載