普段はセルフレームの伊達眼鏡を選ぶことの多い長山だが、新しさを求めてシルバーフレームの一本をチョイス。レンズ周りだけセル巻きになったデザインで、ファッションアイテムとしても取り入れやすい。眼鏡¥105,600(税込)/ゲルノット・リンドナー(コンティニュエ日本橋) 他は私物
2007年の独立以来、ファッションフォトグラファーとして常に第一線でクリエイティブ・シーンを牽引してきた長山一樹も、時代の新しい潮流の中で、自然と日本橋に引き寄せられてきたクリエーターのひとり。2019年に日本橋横山町に2フロアの撮影スタジオ「Atelier Six」と「Studio 2.8」を構え、創作活動の拠点として活用している。
「これまで日本橋とは無縁の生活を送ってきましたが、ここに通うようになって初めて、街の魅力やポテンシャルの高さに気づかされました。この界隈には古くて面白いつくりの建物が多くて、しかも青山や渋谷などと比べると、割安にスペースを借りることができます。だから空間づくりやプレゼンテーションにこだわった、面白いショップがどんどん増えています。古いものをモダナイズして、新しい表現を生み出す流れは、今後もっと盛んになっていくと思います」
昨今は建築界やホテル業界においても、古い建物のもち味を活かしたリノベーションが盛んに行われている。日本橋にはそんなアイデアを受け止めてくれるキャンバスが、まだまだ数多く残されているようだ。
左:柔軟性と軽量性に優れた、ネジを使わないワイヤーチタンとアセテートを組合せたデザイン。眼鏡¥75,900(税込)/リンドバーグ 右:アイウェア業界における重鎮デザイナー、ゲルノット・リンドナーによる、シルバー925を用いたミニマルなデザイン。眼鏡¥92,400(税込)/ゲルノット・リンドナー(ともにコンティニュエ日本橋)
ファッションやクリエイティブのシーンといえば、青山、渋谷、新宿といった、東京の西側エリアが中心というイメージがあるが、近年は「それもだんだん変わってきている」と長山。
「最近は、カルチャーが東京の西側から東側へと移動してきている雰囲気があります。ニューヨークのブルックリンやロンドンのショーディッチもそうですが、最初は家賃の安い地域にクリエーターやアーティストが集まってきて、自分たちが面白いと思うことを自由に表現していくうちに、エリア全体が活性化され、独特の魅力を放つようになります。それと同じような空気を、いまの日本橋エリアはもっている気がします」
べっ甲製品の工房「大澤鼈甲」と共同で製作した眼鏡は、フレームの下半分に、琥珀色の希少な白甲を採用。眼鏡¥797,500(税込)/大澤鼈甲×コンティニュエ(コンティニュエ日本橋)
「オーセンティックなものと、モダンなもの。先進的なアイデアや、地に足のついたライフスタイル。いろんな異なる価値観が出合って混ざり合い、摩擦を起こしながら独自の文化を形成している場所に身を置くことは、クリエーターとしてとても刺激になります」
ファッションの街、飲食の街、住宅街などと呼ばれるような、ひとつの要素が突出し、異なる刺激に晒されることの少ない街からは、新しい何かは意外と生まれにくいのかもしれない。あらゆる要素を飲み込んで許容できる懐の深さが、カルチャーの成熟には不可欠なのだ。今回長山は、コンティニュエ日本橋からピックアップしたアイウェアの数々を、自身のスタジオ「Atelier Six」に持ち込み撮影した。これもまた、日本橋がもたらしたひとつの“摩擦”であることは確かだ。