西南戦争、水俣裁判、米騒動……国道3号線を軸に見る九州の「困難」。

  • 文:新木安利(元福岡県築上町図書館司書)

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『国道3号線 抵抗の民衆史』森 元斎 著 共和国 ¥2,750(税込)

【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】

九州は「なぜこうなのか」と著者は問いを発している。そして九州の西を縦貫する国道3号線に沿って、南から鹿児島、水俣、柳川、中間、門司と北上し、民衆の抵抗の歴史を掘り起こす。西南戦争、水俣病事件、サークル村、筑豊炭鉱、米騒動……。そこは移民の街である。なぜ移民するか。

人間は腹が減る動物であり、戦前人口が増えると農家の二男三男は町に出て企業に就職するか、炭鉱や軍隊に行くか、満州などの植民地に行くかしかなかった。戦後引き揚げてきても、村より町に住み着いた。朝鮮戦争特需から高度成長へと移り変わり、町にはパンとサーカスがあったから。

しかし、金目の物がある所には必ず問題が起こった。炭鉱事故、公害、薬害、貧富の差、環境破壊など。人間は欲が深いから、権力への意志の表出は錯綜し、闘争を生んだ。権力者や経済強者は、弱者をいたぶった。「この水俣病は 人が人を人と思わんごつなったその時から はじまったバイ」と水俣病患者の緒方正人は言う。

著者は続いて詩人の谷川雁を挙げる。谷川は水俣で、移民と出会って思索と行動を展開した。水俣は、天草や朝鮮半島からの移民の町である。谷川は、チッソ付属病院の院長に、イプセンの『民衆の敵』を読むよう勧めた。院長は愛読したが、チッソの城下町、水俣の「社会の敵・会社の敵」にはなれなかった。さらに谷川は筑豊炭田の一角で、雑誌『サークル村』を創刊した。雑誌で谷川は原点を求め、下降してゆくことで農村世界を発見し、人間性を再獲得しようとした。新たな言葉を発見し、世界の認識を変えることを目指したのだ。コミューンの幻視である。それにもかかわらず、現実、村は滅びつつあることを著者は示す。

本書を読み、九州は、そして世界は「なぜ困難なのか」ということを、私も問いたくなった。



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