取り戻した“魔法”のかかった、光と闇のフォークトロニカ

  • 文:赤尾美香

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『ソングス・ユー・メイク・アット・ナイト』

タン 

取り戻した“魔法”のかかった、光と闇のフォークトロニカ

赤尾美香音楽ライター

UKの6人組バンド。中心メンバーのマイク・リンゼイはソロ活動の他、シンガーのローラ・マーリングとのユニット、ランプでも活躍中。サンプリングを担当するフィル・ウィテカーはジョン・グラントのバンド、クリープ・ショウなどでも活動。

サム・ジェンダースとマイク・リンゼイが2003年にロンドンで結成した6人組、タンは05年アルバム・デビュー。07年に3作目を発表した後サムが脱退するも、バンドはマイクを中心に継続してきた。有機的なフォークとモダン・エレクトロニカを融合したサウンド(=フォークトロニカ)が特徴で、とりわけ初期作品においては、その融合に生々しい歌のハーモニーが重なり、素朴さの中に神秘的なムードを湛えていた。
5年ぶりとなるタンの新作は、サムがバンドに復帰しオリジナル・メンバーによる録音が実現。マイクがサムを誘い、スロウズなるユニットでアルバムを制作したこと(16年)や、マイクとローラ・マーリング(英国のシンガー・ソングライター)のユニット、ランプでの経験も踏まえ、自らのフォークトロニカをアップデイトしている。
マイクがイメージしたのは、美しい光が差し込む暗い水の中。光と闇は初期作品における明確なテーマであり、今一度それを追求したかったのだという。「初期のアルバムには、本当に“魔法”が存在していた。この作品の中で僕らは、再びその魔法を手にしたかったんだ」とマイクは語る。
 “きみが夜に作る歌”のタイトルにふさわしく、冒頭が「Dream In」で最終曲が「Dream Out」という構成も心憎い本作。夜や夢や水をモチーフに綴られる物語、丁寧に編まれエレガントなメロディ、飾り気のないフォーキー・サウンド、遊び心も効いた彩り豊かな電子音、そして特に印象深いのは、歌だ。ニュアンスに富んだ男女混成の声の重なりは、キャッチーな5曲目「Dark Heart」に不穏さを忍ばせ、可憐な10曲目「Like Water」にセンシュアルな薫りをまとわせる。細やかで繊細、気高さをも感じさせるハーモニーに心は揺れ、穏やかな昂揚感を覚えずにはいられない。

『ソングス・ユー・メイク・アット・ナイト』
タン 
AMIP-0144 
インパートメント 
¥2,592(税込)