歓喜のギターが炸裂する、 名裏方ネイト・マーセローの強烈なソロ・アルバム

  • 文:山澤健治

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ロサンゼルスを拠点とするプロデューサー/作曲家/マルチ奏者。シーラ・Eのバンドのギタリストとしてプロ活動を開始。近年、プロデューサー業を本格化させ、ショーン・メンデスやリゾなどのポップ・アイコンまでも幅広く手がける。

どの業界にも名人と呼ばれる裏方はいるものだが、現代のミュージック・シーン屈指の名裏方といえば、この人。ネイト・マーセローであろう。ヒップホップ界の首領ジェイ・Zの2017年度作『4:44』ではギターやフレンチホルンなどマルチ奏者として貢献。翌18年には、トラディショナル・ソウルの継承者リオン・ブリッジズの『グッド・シング』でほぼ全曲を共作し、ポップ界の貴公子ショーン・メンデスのサード作ではゼッドとのコラボが話題を集めた「ロスト・イン・ジャパン」をプロデュース。さらには昨年最大のブレイク・アーティストとなったリゾの『コズ・アイ・ラヴ・ユー』で「ジュース」など主要曲をプロデュースし、その成功を陰で支えた。

そんな名裏方がソロ・アルバム『ジョイ・テクニークス』を携えて表舞台に登場した。それも主役にふさわしい本性むき出しの作品で、ジミ・ヘンドリックスからマイルス・デイヴィスまでジャンルレスにギターを弾きまくった少年時代に立ち戻るように、ギタリストとして作曲することに執心。アバンギャルドでサイケデリックなエクスペリメンタル・ジャズが炸裂する圧巻のインスト作に仕上がっているのだ。

ほぼすべての演奏を自らこなし、鍵盤は使わず、代わりにギター・シンセサイザーを多用したこの作品には、演奏を楽しむネイトの歓喜の音が蓄積されている。ファーストテイクを多く採用したのも、演奏する喜びや醍醐味が凝縮した瞬間を純粋なカタチで残したかったからだろう。注目の新世代ジャズ・サックス奏者テラス・マーティンを迎えた表題曲はその好例。ドラムンベースとハードコア・パンクがぶつかりあうような衝撃が音に刻まれている。リフもソロも洒脱で強烈な、痛快なギター・インスト盤だ。

『ジョイ・テクニークス』
ネイト・マーセロー BRC-653 ビート・レコーズ
¥2,420(税込) 9/25発売