もはやブラジルの山下達郎?新たなシティポップの名盤。

  • 文:栗本 斉

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『クライテリオン・オブ・ザ・センシズ』

エヂ・モッタ

もはやブラジルの山下達郎?新たなシティポップの名盤。

栗本 斉音楽ライター

ここ数年、シティポップが一大ブームになっている。1970〜80年代のレコードが再評価されるだけでなく、Suchmosやceroなどの若手もシティポップ的なアプローチで人気を呼び、台湾やインドネシアなどでも当時のサウンドに影響を受けたアーティストが続々と登場している。そしてなんと、ブラジルにも飛び火しているのだ。
ただ、ここで紹介するエヂ・モッタは、けっして流行りに乗ったわけではない。リオデジャネイロ出身の彼は、90年代末にデビューしているが、当初からシティポップのルーツでもあるソウルやAORを取り入れたブラジリアン・ポップを生み出し、この20年間マニアを狂喜させてきた。レコードコレクターでもある彼は、シティポップに限らず日本のポップスに精通しているらしく、数年前の来日公演では大御所ギタリストのデヴィッド・T・ウォーカーと初共演し、そこでなんと山下達郎の楽曲をカヴァーして大いに盛り上げた。また、日本のレコードだけでDJミックスした音源をウェブにアップして話題になったこともある。だから、新作が「シティポップっぽい」といわれても何ら不思議ではない。
実際に、イントロだけを聴くと、「ユーミン? それとも、角松敏生?」なんて思ってしまうサウンドには、日本のシティポップ・マニアも驚くはず。他にも、スティーリー・ダンやスティーヴィー・ワンダーといった通好みのアーティストを思わせるアレンジにも彼の好みがにじみ出ており、極上のグルーヴィーなポップチューンがこれでもかというくらい繰り出されていく。そして何より、彼の伸びやかでソウルフルな歌声の心地よさは格別。言葉や国籍はこの際気にせずに、新しいシティポップの名盤として楽しみたい一枚なのだ。

日本でも大ヒットを記録した2013年の『AOR』、豪華ミュージシャン陣をフィーチャーした16年の『Perpetual Gateways』と、立て続けに都会派AORサウンドの作品をリリース。一躍、現代AORの権威となったともいわれている。

『クライテリオン・オブ・ザ・センシズ』
エヂ・モッタ 
PCD-24767 
Pヴァイン 
¥2,592(税込)