音楽を鳴らす喜びと興奮に満ちた、ミュージカル仕立ての野心作。

  • 文:上野功平

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『ゴー・トゥー・スクール』

ザ・レモン・ツイッグス 

音楽を鳴らす喜びと興奮に満ちた、ミュージカル仕立ての野心作。

上野功平音楽ライター

神童。ポップ・ミュージックの世界では、時にそんな枕詞も似合う若き天才が現れるものだが、2016年に『ドゥ・ハリウッド』でデビューを果たしたダダリオ兄弟からなるデュオ、ザ・レモン・ツイッグスは紛れもなく本物だった。ジャンルや時代感覚すら超越したキテレツなバロック・ポップは、エルトン・ジョンやクエストラブ(ザ・ルーツ)らを魅了し、昨年2度に亘って行われた来日公演でも、圧倒的なカリスマ性とテクニックで観衆をノックアウト。彼らが当時まだ10代だと聞いて腰を抜かしたのは、筆者だけじゃないはずだ。
この度リリースされる待望の2ndアルバム『ゴー・トゥー・スクール』は、これまで同様、作詞・作曲からプロデュースまで兄弟自らが手がけており、ヒトの男の子として育てられた純粋な心を持つチンパンジーのシェーンが、その困難な宿命を受け入れて成長していくというミュージカル仕立ての野心作。キャストの配役がまた見事で、シェーンの母親役をダダリオ兄弟の実母スーザン・ホールが、父親役をあのトッド・ラングレンが演じたのだから驚きだ。特にトッドは兄弟にとってのメンター的存在であり、幾度となく音楽性の類似を指摘されてきたので納得の人選。スウィートなラヴソングで幕開けた前作とは一転、冒頭から胸のすくようなエレキ・ギターが炸裂しまくっているのもポイントである。
以降も「ザ・レッスン」を筆頭に優雅なストリングスとバンド・サウンドが目まぐるしく展開し、ビーチ・ボーイズ譲りの美しいコーラス・ワークも健在。兄弟は「今、昔、大、小、殺伐、希望。そのすべてが1時間に詰まっている」と語るが、そこから溢れ出すのは音楽を鳴らすことのピュアな喜びと興奮だ。ザ・レモン・ツイッグス流の『スクール・オブ・ロック』とも呼べる本作、不登校は禁物です。

2016年にアルバム『ドゥ・ハリウッド』でデビュー。批評家たちやメディアから高い評価を得ただけでなく、エルトン・ジョンからクエストラブ、FUN.のジャック・アントノフまで、多くのアーティストやミュージシャンをも虜にしている。

『ゴー・トゥー・スクール』
ザ・レモン・ツイッグス 
4AD0094CDJP 
ビート・レコーズ 
¥2,376(税込) 
9/7発売