観察・解剖し、食べてみる、サメの生態を全力レポート

  • 文:今泉愛子

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『ほぼ命がけサメ図鑑』

沼口麻子

観察・解剖し、食べてみる、サメの生態を全力レポート

今泉愛子ライター

シャーク・ジャーナリストを名乗る著者は、大学と大学院でサメの生態を学び、現在はサメに特化した取材活動と情報発信を行う、自称サメ大好き人間。人生の中でサメに関すること以外を一切排除して、サメを毎日追いかけている。サメに会うために海に潜り、漁に立ち会い、サメを解剖して顎の標本を製作し、ときにサメを料理し、サメについての見識を高める日々だ。
その著者が最初に指摘するのは、あまりに多くの人がサメのことを誤解しているという現状だ。元凶は、映画『ジョーズ』。スクリーンの中の、人を襲う、どう猛なサメの姿があまりにリアルで、それがサメの生態として印象付けられてしまった。しかし著者は、サメはたまに人間に噛みつくことはあっても好んで食べることはないと言う。日本の海水浴場では、付近にサメが出没すると遊泳禁止になることがあるが、そこまで恐れる必要があるとは思えないそうだ。というのも、サメは現在500種以上が確認されていて、大きさも生態もさまざま。体長1mに満たないサメも多く、サメ=凶暴と決めつけるのは偏見でしかないと主張する。
それでは一体、サメとはどんな生き物なのか。第1章では、『ジョーズ』の誤りを指摘し、サメの生態について説明。さらに第2章では、著者が出会ったことのある22種類のサメを図解入りで詳しく紹介する。そして第3章では、世界のサメ事情をレポート。魚市場でサメが売られていたアラブ首長国連邦、サメ肉を使ったカレーが日常食のスリランカ。サメ肉消費日本一を謳う新潟県上越市のスーパーには、サメ肉コーナーがあるという。サメ界では、著者顔負けのサメ好きたちが続々と増えているという事実がわかり、面白い。
大人も子どもも、実態を知れば知るほど夢中になるというサメの魅力を、タイトルの通りまさに全身全霊をかけて伝えている。

『ほぼ命がけサメ図鑑』
沼口麻子著 
講談社 
¥1,944(税込)