紛争地帯に描かれた一枚の絵に、 アートの真の実力を知った。

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    『バンクシーを盗んだ男』

    マルコ・プロゼルピオ

    紛争地帯に描かれた一枚の絵に、 アートの真の実力を知った。

    片桐 仁俳優

    『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』などのドキュメンタリーも監督しているアーティストのバンクシー。彼のもつ光と闇に、マルコ・プロゼルビオ監督が迫った。ナレーションをイギー・ポップが務めていることも大きな話題を呼んでいる。©MARCO PROSERPIO 2018

    現代アートのスーパースター、バンクシー。世界的に有名なのに、その姿は誰も知らない。彼の作品の多くは、壁に落書きをする「グラフィティ」という手法だ。
    2年前に上映された『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』は、ネットで予告されたバンクシーのゲリラアートに人々が熱狂するさまや、それを勝手に切り取る若者たち、高価で買い取って、さらに高く売ろうとするギャラリーのオーナーなど、その過熱ぶり!とそれを嘲笑うような、アーティストの視線を捉えていた。“それらすべてがアートである”と感じる、見ていてワクワクするドキュメンタリー映画だった。
    そして本作では、バンクシーのグラフィティがベツレヘムという紛争地帯に描かれることで、事態が一変する。もともとは日常的に交流していた、イスラエルとパレスチナの人々。それを数百㎞におよぶ壁が突如分断した。そして壁のパレスチナ側にアーティストが招かれグラフィティを制作。その一枚、バンクシーの作品が物議を呼ぶ。
    「アートの力でこの場所が世界に注目されて、少しでもこの状況を知ってほしい、変わってほしい!」という、当初の思いとは裏腹に、やはりなにも変わらない現実。なくならない壁。それどころか観光地化するベツレヘム……。
    案の定、その壁をグラインダーで切り取る地元民が現れる。そして「作品を長持ちさせるため」という大義名分によって、オークションにかけられる。グラフィティはその場にあるから意味があるのに、高い値をつけられ、売り物にされてしまう。そこにバンクシーはいない……。
    「じゃあ、どうすればいいんだ⁉」
    アートで世界は変えられないというが、この映画を見れば、“遠い外国の話”だと、もはや人ごとではいられなくなる。アートの真の実力、恐ろしさを実感した。

    監督:マルコ・プロゼルピオ
    2018年 イギリス・イタリア合作映画 1時間33分 
    ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開中。
    http://banksy-movie.jp