かつての妻の目が捉えた、ゴダールの素顔と映画への愛。

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    『グッバイ・ゴダール!』

    ミシェル・アザナヴィシウス

    かつての妻の目が捉えた、ゴダールの素顔と映画への愛。

    細谷美香映画ライター

    ゴダールのかつてのミューズであり、女優、作家として活躍したアンヌ・ヴィアゼムスキー。『ニンフォマニアック』でスクリーンデビューしたステイシー・マーティンが、60年代のファッションを着こなして彼女をキュートに演じている。©LES COMPAGNONS DU CINÉMA –LA CLASSE AMÉRICAINE –STUDIOCANAL –FRANCE 3.

    今年のカンヌ国際映画祭で新作を出品し、スイスの自宅からFaceTimeで記者会見に登場してシネフィルたちを驚かせた、87歳のジャン=リュック・ゴダール。彼とかつての妻だったアンヌ・ヴィアゼムスキーが過ごした、恋と革命の日々を軽やかなテンポで綴ったコメディが『グッバイ・ゴダール!』だ。ヴィアゼムスキーの自伝的小説をもとに、1960年代の心躍るカルチャーやファッションをコラージュして、『アーティスト』でハリウッドでも脚光を浴びたミシェル・アザナヴィシウス監督が映画化した。 
    ソルボンヌの哲学科に通う大学生、ヴィアゼムスキーはゴダールと恋に落ち、新作『中国女』にも抜擢される。ノーベル賞作家、フランソワ・モーリアックの孫娘でもあるヴィアゼムスキーと世界中が注目する映画監督はどこに行ってもフラッシュを浴びるセレブリティだ。ふたりは新婚生活をスタートさせ刺激的な日々を送るが、パリの街ではデモが激しさを増していた。やがて五月革命が勃発、ゴダールの映画もその嵐に巻き込まれていく。 
    これは政治の季節を背景に、映画づくりへの情熱を描いた作品であり、そしてなにより、つくり手をインスパイアしながらも私が私のままで深呼吸できる居場所を探す、新しい時代のミューズを巡るストーリーでもある。 
    もと妻の視点で描かれたゴダールは饒舌な変わり者で、嫉妬もすれば混乱もする。現在のゴダールの心中を思うと勝手に気を揉んでしまうが、ルイ・ガレル版のゴダールもなかなかどうして、愉快でチャーミングだ。伝説になることを拒むようにいまも現役であり続けるヌーベルバーグの巨匠と、彼の素顔を崇めたてることなくユーモアたっぷりに描き出した本作。その精神はゴダールとどこかで通じ合っているのかもしれないというのは、言い過ぎだろうか。

    『グッバイ・ゴダール!』
    監督:ミシェル・アザナヴィシウス
    出演:ルイ・ガレル、ステイシー・マーティン、ベレニス・ベジョほか
    2017年 フランス映画 1時間48分 新宿ピカデリーほかにて公開中。
    http://gaga.ne.jp/goodby-g