トム・ヨークが新譜で問う、表層だけで生きる者の魂の在処。

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    『アニマ』

    トム・ヨーク

    トム・ヨークが新譜で問う、表層だけで生きる者の魂の在処。

    鈴木宏和音楽ライター

    Photo by Alex Lake

    トム・ヨークはイギリスのロックバンド「レディオヘッド」のボーカル、ギター、ピアノなどを担当。2006年にソロアルバム「ジ・イレイザー」をリリース。今作は全曲トム・ヨークが作曲、ナイジェル・ゴドリッチがプロデューサーを務めている。

    間もなく開催される「フジロックフェスティバル’19」に、トム・ヨークがソロのトゥモローズ・モダン・ボクシーズ名義で出演する。個人的には違和感を禁じ得ない光景なのだが、近年の彼のライブでお馴染みとなった、パフォーマンス中は会場中が静まり返り、終わると思い出したかのように大歓声が湧き起こるという、あの不思議な磁場が苗場に作り上げられるのだろう。

    それにしても、ずいぶんと遠いところまで来たものだ。いまだレディオヘッド「クリープ」の幻影を追おうとしている自分のようなリスナーは、ファンにとって原始人みたいなものかもしれないが、瞑想音楽とも脳内音楽とも呼びたくなる、こんな異端サウンドの境地にトム・ヨークが達するとは想像もできなかった。ましてや、「決してひとりでは観ないでください」のコピーで日本(の一部世代)を震撼させた、傑作ホラー映画『サスペリア』のリメイク版でサントラを手がけるなんて。

    来日直前に届いたソロ3作目『アニマ』は、本人によると、昨年行われたトゥモローズ・モダン・ボクシーズのUSツアーが発展してできたアルバムで、不安とディストピアがインスピレーション源だったのだとか。そのことは、今作の音と歌を耳にすれば一聴瞭然だ。密室に閉じ込められたような感覚に陥る神経症的な多重ボーカル、悲鳴にも聴こえる衝動的な叫び、葬送曲を思わせるトラックに乗る独白、脳を麻痺させる反復メロディ、浮遊する不協和音、呪文にも似たコーラス。そこから立ち現れてくるのは、ユートピアとは真逆の八方塞がりな闇の世界であり、安らぎなど許されない。 

    『アニマ』とは魂の意味だが、これは“いいね!”に支配され、表層だけで生きる者たちの魂の在処を問う作品なのかもしれない。そして、目を覚ませ、真実を知れというトム・ヨークからの警告なのかもしれない。

    『アニマ』
    トム・ヨーク
    XL987CDJP
    ビートレコーズ
    ¥2,700(税込)
    7/17発売