人気の詠み人ふたりが案内する、短歌と俳句、それぞれの世界。

『短歌と俳句の五十番勝負』

穂村 弘/堀本裕樹 著

人気の詠み人ふたりが案内する、短歌と俳句、それぞれの世界。

今泉愛子 ライター

短歌と俳句に興味はあるが、どこから入ればいいのかわからない、という人にお薦めしたい良書だ。 
歌人の穂村弘は、エッセイや書評、翻訳などにも活躍の場を広げ、俳人の堀本裕樹は、俳句入門講義や気軽に参加できる句会の開催など、積極的に俳句の魅力を発信している。どちらも自由に活動を続けていて、表現に対する気負いを感じさせない。 
そんなふたりが、お題をもとに短歌と俳句を詠む。このお題は、作家の道尾秀介やタレントの壇蜜、装幀家の名久井直子ら50人が考えたもので、「誕生日」や「カルピス」などのわかりやすい名詞から「信じられない」や「四十八」、「忖そん度たく」「安やす普ぶ請しん」、さらに「ぴょんぴょん」までさまざま。一体どんな作品が生まれてくるのか。1ページ目から順に読んでもいいが、気になるお題があれば、そこから読んでもいい。たとえば、「ゆとり」というお題。
『「ゆとり世代」が職場に来たら読む本』を立ち読みしてるランドセルの子(穂村) 
秋扇のゆとりや時に海指して(堀本) 
それぞれの世界が立ち上がっていく様子が伝わってくると同時に、短歌と俳句の違い、ふたりの作風の違いもなんとなくわかる。 
両者の作品は、詠んだ本人の解説付き。「最初は、解説を読まずに味わってほしい」などと難しいことを言わないふたりは、わからなければ解説を読み、なるほど、と思えばいいというスタンスなのだろう。そうやって読むうちに、短歌の方が好きかも、とか、この句はインパクトがある、とか、なにかしらの取っ掛かりが生まれてくる。 
最後まで彼らは「あなたも詠んでみたら」とは言わない。本書を読んでそれっきりでもいいのだ。でももしかすると5年後に短歌を、あるいは俳句を始めるかもしれない。そんな余韻が、本書のいちばんの魅力だ。

『短歌と俳句の五十番勝負』
穂村 弘/堀本裕樹 著 
新潮社 
¥1,728(税込)

人気の詠み人ふたりが案内する、短歌と俳句、それぞれの世界。