トランスジェンダーの少女を襲う、大変な絶望を描いた映画。

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    『Girl/ガール』

    ルーカス・ドン

    トランスジェンダーの少女を襲う、大変な絶望を描いた映画。

    今 祥枝ライター/編集者

    ルーカス・ドンは本作で長編映画監督デビュー、カンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)を受賞。「第二のグザヴィエ・ドラン」と称えられた。振り付けを担当したのはコンテンポラリーダンスの旗手、シディ・ラルビ・シェルカウイ。© Menuet 2018

    2018年7月、お茶の水女子大学がトランスジェンダーの学生の20年度からの受け入れを発表した。以来、日本でもトランスジェンダーをめぐる議論が活発化している。改めて「身体の性」と「心の性」、そして「好きになる性」について考えてみるものの、その在り方はまさに多様だ。そんな時、映画『Girl/ガール』に出合った。

    主人公はバレリーナを夢見る15歳のララ。生物学的には男性として生まれたが自分は女性だと確信し、15歳で自身のセクシュアリティを公表した、ダンサーのノラ・モンセクールがモデルだ。ベルギーの新鋭、ルーカス・ドン監督は、2009年に新聞記事でモンセクールのことを知り、長い時間をかけて映画化を実現した。

    バレエの才能があり、強い意志でたゆまぬ努力を続けるララは、父親と弟の3人暮らし。父親はトランスジェンダーであることを理解し、サポートしてくれているが、ホルモン療法の治療の成果は芳しくなく、日々自分の身体との違和感に苦しんでいる。股間をテーピングで無理やり抑え、レッスン後のシャワーも浴びずにトイレで着替えながら、過酷な練習を黙々と続けるララ。血のにじむような努力、ライバルたちから向けられる嫉妬と好奇の目、身体の変化に対する戸惑いと恐怖。オーディションで選ばれた現役のトップダンサー、ビクトール・ポルスターは、神々しいとも言えるほどのパフォーマンスを披露しながら、ララの心情を繊細かつ力強く体現している。

    静かで、美しい映画だ。だからこそ終盤のララの悲痛な心の叫びが、ある行動となって表れる瞬間、胸が張り裂けそうになる。悲しいとか、辛いといった感情をはるかに凌駕する絶望。身体と心の性の不一致が、どれほどの苦しみをもたらすのか。どんな言葉よりもララの物語は、そのことを切実に伝えて心を揺さぶる。

    『Girl/ガール』
    監督/ルーカス・ドン
    出演/ビクトール・ポルスター、アリエ・ワルトアルテほか
    2018年 ベルギー映画 1時間45分 7月5日より新宿武蔵野館ほかにて公開。
    http://girl-movie.com